2024年4月21日(日)

Wedge REPORT

2023年12月4日

実情に合わない数字

 改めてクマの推定生息数と駆除数の推移を見ると、従来と実情に合わなくないのは間違いない。とくに秋田県では、駆除と狩猟の合計捕獲数が23年の11月時点ですでに1800頭に達する勢いだ。それでも出没は収まらない。生息数を20年に4400頭としたものの、もっと多いと考えた方が辻氏妻が合うかもしれない。

 ツキノワグマは、性成熟するまで3~4年かかり、一度の妊娠で1~2頭を出産する。ヒグマの出産は4歳以降とされ、1~3頭だ。そうした条件からは、クマの生息数がいきなり増加するようには思えない。また九州では絶滅し、四国でも20頭前後しか生息せず絶滅の危機にあると見込まれている。それなのに、なぜ本州、北海道では増えたのだろうか。単に調査方法が変わっただけでは説明できない。

 クマの生息数の変動に関しては、その解明に取り組んでいる研究者もいるが、結論は出ていないようだ。ただ私は、重要なのは餌の多寡だと思っている。生息数が増えれば餌も多く必要となる。仮にクマの出産数が以前より高まったとか、死亡要因が減って長生きするようになったとしても、餌が足りなければ全個体は生存できないはずだ。つまり生息数の増加の背景には、餌が豊富になったと考えるのが自然である。

 クマは雑食性と言われるが、基本的に草食で木や草の実を好む。しかし同時に昆虫も食べるし、魚も獲れば動物も襲う。北海道で家畜のウシを次々と襲って世間を震撼させたヒグマの「OSO18」のように肉食に特化したケースも知られる。

 私は、1980年以降、日本の山の植生が変わったことが餌を増やしたと睨んでいる。一般に思われている以上に、日本の自然ははるかに豊かになってきた。長く各地の山々を歩いているが、どんどん木が茂り、森は深くなっていると感じるのだ。

 よくスギやヒノキの人工林には餌がないと言われるが、実際に人工林内を歩くと、意外なほど広葉樹や草が生えている。スギだけしかないスギ林はむしろ少なくて、針広混交林化していたり、スギの木の下に低木の広葉樹が繁ったりするところが増えた。里山の草原や疎林、そして田畑だったところにも木々が生えて密林化が進んでいる。

 それは、農林業の不振で人の手入れが行われなくなったことや、温暖化が進んで植物の生長もよくなったことも影響しているのだろう。その結果、単に動物に餌を提供するだけでなく、見通しが悪くなって隠れ場所になるなど、人里への侵入を試みる野生動物には都合がよい。

 また中山間地域で進む過疎化は、別の意味でもクマの餌を増やしている。集落内に植えられたカキの木やクリの木、そしてミカンやユズなど柑橘類も実が放置されて鈴なりのままに残された現場をよく見かけるようになった。さらに畑にも収穫されず放置された野菜類を目にする。


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