エアコンは、部屋の温度を司る家電だが……人は?
そんな中、再度クローズアップされるのが、部屋全体を冷やしたり、温めるのではなく、人がいるところを強く冷やしたり、温めたりすることだ。最終的には同じ温度になるのかもしれないが、部屋にいる人の不快感はかなり軽減できるのではないだろうか? という考えがある。
この思想を具現化しているのが、三菱電機の「霧ヶ峰」だ。FZ、Z、FD、ZDシリーズに搭載されている「ムーブアイ mirA.I.+(ミライプラス)」がそれ。最後に「プラス」を付けるのは最近の流行りのネーミングである。
ムーブアイは、快適と省エネの両立のために開発された技術だ。今でこそ、「設定温度1℃で消費電力量10%」といったことは流布し、ユーザーも我慢することを知っているが、実際、設定温度を上下げさせると、少しずつ積み上げてきた省エネ効果は一気に無駄になる。
設定温度で全員が満足できないのは、ユーザーの温度の感じ方に差があるためでもあるが、別の理由もある。それはユーザーがいる床近くと、エアコンが設置されている天井近くでの温度差だ。加えて、同じ部屋内でも場所により温度が違う。しかし、1990年代までのエアコンは、そして多くのモデルは、吸入口のところにある温度センサーが全て。要するに部屋の温度を十分感知していないわけだ。
これを打破するために、2000年に輻射センサー、つまり赤外線センサーを付けたのが「ムーブアイ」の原型。人、ものは必ず赤外線を出す。その強度は、温度により変わり、温度が高いと強くなる。
はじめは、床の温度を計るのがせいぜい。しかし、それでは窓がある壁の温度が分からない。窓は、室温の熱の40%程度も関わるとも言われている。そうならば、赤外線センサーを回転させてしまえと考えて作られたのが「ムーブアイ」。アイとはいうもののカメラが入っているわけではない。あくまでも赤外線センサーだ。これが2005年に登場した。
ここからは年々精度が上がる。2007年、人の居場所を検知するようになり、14年には、0.1℃の単位で、手先・足先の温度を検知できるようになった。
2017年はIoT元年。この辺りから、ビッグデータの積極活用でどんどんAIが賢くなる。最も端的な例はロボット掃除機。人間が作るプログラムはやはり人間発想。つまり視覚(=デジカメ)が最強となる。しかし、カメラのデータを人間のように見分けることができなかった。このためペットの廃棄物をゴミと勘違いして、汚物まみれになることもあった。それをしなくなったのは、ビックデータでAIを強化したからだ。このように、センサー(情報入手)だけでなく、AI(情報分析、判断)が重要となる。
2018年、「霧ヶ峰」もAIを搭載。日々の運転の中で住宅性能を分析した上で、ちょっと未来の温度を予測する「ムーブアイmirA.I.」が登場した。20年には、風の流れを推測できるようになった。温風・冷風が接する床・家具などの温度変化から空気の流れを推測し、届いていなければ自動で風を調節する。
ちなみに、宇宙開発も行っている三菱は、人工衛星に搭載した赤外線センサー技術で、エアコンの赤外線センサー「MelDIR(メルダー)」を作っている。色々な分野で磨かれると、技術は進化を促される。
そして今年、「エコモアイ」と呼ばれる非接触型のバイタルセンサーが追加搭載された。ユーザーの脈拍変動で気分を読み取り、ユーザーの状態をより深く確認する。エアコン調整に寄与させるわけだ。
非接触型のバイタルセンサーには色々な方法があり、ミリ波を使用した非接触型のバイタルセンサーにより安否確認などを実用化しようとしているメーカーもある。この非接触型のバイタルセンサーは、今後、色々なものに搭載され、一人暮らしの安否確認を皮切りに、有効活用されると思われる。