ただ、異なるイデオロギーの場所に行くことについて問うと「言いたいことは理解できる。でも、私たちにも人生があり、日常生活までいろいろ言われるのは……」と複雑な表情に。選挙日の予定を尋ねると「深圳に行く予定はないけど、選挙にも行かないかな。自分の1票は意味がないし、そもそも誰が立候補しているのかも知らない」。
いずれにしろ、制度変更が投票率低下を加速させかねない状況を生んでいた。
投票率向上へ必死な香港政府
香港政府としては、投票率を高められなければ、選挙の正当性が揺らぐので何としても高めたい。中央政府も候補者は全て親中派なので民主派に邪魔される心配はないが、投票率が低いのは同じく正当性や面子に関わるので高い投票率を期待する。
香港政府は、区議会選挙の告知ポスターをあちらこちらに貼ったり、SNSを使ってなんとか香港市民の関心を高めようとしている。香港政策局の一つである民政及青年事務局(Home and Youth Affairs Bureau)も告知活動を活発化させるなど投票率向上に必死だ。
選挙前日の9日は「區選繽紛日(District Council Election Fun Day)」と題して、博物館などを入場無料にしたり、コンサートを実施したりと、投票してもらうために大規模なプロモーションを実施する。
記者会見で「過剰な宣伝が市民に疲労感を与えていないか?」という質問が飛び出した。李家超(ジョン・リー)行政長官は「区議会選挙が市民にとって非常に重要で、政府はその重要性を理解してもらい、投票率高める責任がある」と語った。香港政府へのプレッシャーは大きいようだ。
市民からの信頼回復はあるのか
取材帰りのバス停で「公開資料守則」、「香港需要明鏡-独立掲示問題-」という広告があった。前者は「公文書は見ることができますよ」と言う宣伝で、後者は香港政府の運営監視や公的機関の不正行為を問題処理する独立の法定機関が「香港に潜んでいる問題を提起してください」と呼び掛けている広告だ。
そう、香港政府は自分たちが信用されていないことへの焦りを感じ、信用回復のために広告を出しているのだろう。これは市民だけではなく、おそらく香港に居を構える外資系企業を含めてのメッセージでもあろうが、回復への道のりは非常に長く険しい。投票を呼びかける候補者の演説が虚しく響いた。