済州島名産黄金ヒラメの養殖産業を支えるスリランカ人
済州島の海岸線を走ると独特の景観に驚く。海岸線に沿って巨大な建屋が並んでいるのだ。黒っぽい布地で覆われたコンクリートの巨大な生け簀にポンプで地下から汲み上げた海水を注いでいる。生け簀から排出された海水がごうごうと海に放出される。済州島の水産業を牽引する黄金ヒラメの養殖場である。
8月16日。朝天チョテンの海辺の養殖場(fish firm)で3人のスリランカ青年が専用トラックに桶に入ったヒラメを積み込む作業をしていた。炎天下の重労働だ。
8月18日。南元ナムウォンの海辺の夕刻。1人の青年が散歩していた。彼はスリランカから済州島に来て2カ月。養殖場で3年契約して働いている。養殖場には5人のスリランカ人が働いており宿舎で共同生活。スリランカと韓国の間の政府間協定に基づいた契約なので安心して働けるという。
夕暮れ時に30歳前後のスリランカ人が通りかかった。彼は養殖場で既に5年働いているが経験を買われ好待遇なのでさらに契約を延長したという。日本に出稼ぎに行っている友人と比較すると韓国は日本より賃金水準が高く契約が延長できるのが魅力と説明してくれた。
韓国の外国人労働者の賃金水準
韓国で外国人労働者からしばしば耳にしたのが、“日本よりも賃金が高い”という比較である。2019年の両国の統計を比較した報告書によると、日本の技能実習生の55%が月収15~20万円であるのに対して、韓国の非専門就業者(いわゆる単純労働者)の62%は月収19~28万5000円(200万~300万ウォン)である。
しかも、2019年と2023年の為替を比較すると日本円は韓国ウォンに対して13%下落している。2023年の為替レートで計算すると2019年の韓国の非専門就業者の62%は月収21万5000円~32万2000円となる。日韓の賃金格差はかなり大きいようだ。
知日派知識人が分析する韓国の外国人労働者事情
7月27日南原市。ソウルからUターンして故郷南原市に戻った日本留学経験のある知日派知識人K氏と知り合った。同氏に韓国における外国人労働者事情について聞いてみた。
K氏は韓国も日本同様に単一民族国家であり本来外国人に対しては閉鎖的社会であると指摘。しかし外国人労働者なしでは国家・社会が維持できないという共通認識が政府・国民に広く浸透しているという。
【参考までに統計数字は以下のとおり】
- 2019年11月時点で韓国の在留外国人は243万人、韓国の総人口(5180万人)の4.7%。2019年5月の外国人労働者数は86万人、全就業者数の3.2%。
- 他方で日本の在留外国人は2019年6月時点で302万人、総人口の2.4%
- 外国人労働者数は2019年10月時点で166万人。全就業者数の2.6%である。つまり韓国のほうが人口規模対比で日本よりも多くの外国人を受け入れている。
K氏によると韓国で特徴的なのは中国や旧ソ連圏に在住する朝鮮系外国人を積極的かつ優遇して受け入れているという。韓国における外国人労働者の国別統計では朝鮮系中国人が41%、朝鮮系ウズベキスタン人が4%となっている。特に中国東北地方(旧満州)の朝鮮系中国人(中国では朝鮮族と区分)はハングルを話せるので重宝されているという。彼らには就労ビザ、永住権取得、帰化申請などで優遇措置があるという。
7月9日。冷たい水をもらいに華城市内の食堂に入ったら中央アジア的容貌の若いウズベキスタン出身の女性がいたことを思い出した。彼女は単身韓国に出稼ぎに来た、父親が朝鮮族で母親がウズベキスタン人のハーフだった。ロシア語は多少話せるけど英語はダメとのこと。ハングルが話せず苦労していると苦笑していた。
政府・公的機関が直接関与する雇用許可制度と雇用契約
K氏によると現在の韓国の外国人労働者受入制度はベトナム、カンボジア、フィリピンなど十数カ国と2国間政府協定を結んで公的機関が直接関与しているという。事業者側からの求人情報を自治体がまとめて関係国の公的機関とマッチングする。1990年代は日本の技能実習制度に倣った私的ブローカーが介在する制度であったが職場からの失踪、給与未払いや人権侵害などの問題が頻発して現在のような制度に変革したという。(注)2004年から現行制度を導入
アフリカ諸国とはKOICA(韓国国際協力団)が窓口となって労働者を受け入れている。そして外国人労働者を保護するための独立した救済機関も設置されているという。受入れプロセスの透明性、人権擁護の制度化など外国人労働者を取り巻く環境を抜本的に改善したことで国際的に高い評価を得ているとK氏は自慢げに語った。(注)ILO、国連、世界銀行などから表彰されている。