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コーヒーショップが乱立、カフェ・チェーンの急拡大
9年前にも釜山を起点に韓国一周自転車キャンプ旅をしたが、今回9年ぶりにソウルを起点に韓国一周して最初に気づいたのはカフェ、コーヒーショップの大増殖だ。スターバックス、エディア・コーヒー、ツーサム・プレース、コンポーズ・コーヒー、トムアンドトムス・コーヒー、ハリス・コーヒーなどが全国展開している。ちなみにハングルではコーヒーは“コピ”、カフェは“カぺ”と表記・発音される。
ソウルなど大都市や観光地は当然としても地方でもまさに雨後の筍のように新しい店が並んでいる。そしてコンビニでもアイスコーヒー、アイスカフェラテなどが飛ぶように売れている。韓国グルメのブログによると、カフェにおける国別コーヒー売上高では米国、中国に次いで韓国が世界第3位であり韓国人のコーヒー消費量は1人年間500杯らしい。このデータの真偽のほどは不詳であるが、さもありなんと思われるほどのカフェの乱立ぶりである。カフェ・コーヒー文化こそが韓国の過去9年間の変化のシンボルではないか。
過去20年の間に韓国の町の様子で変わったことは
今回の旅行で在韓20以上の2人の日本人女性に偶然出会った。忠清南道在住のKさん、全羅北道在住のHさん。お2人とも韓国人の旦那さんと結婚して韓国に渡り幸せなご家庭を築かれている。
2人が奇しくも指摘したのがカフェ、コンビニ、ファーストフードが20年の間に全国展開されてライフ・スタイルが変化したこと。また現在ではどこにでもあるベーカリー(自家製のパン屋)、コインランドリー、ペットショップは20年前には皆無だったとのこと。
20数年前には考えられなかった“友人どうしでランチを外食してカフェする”ことが韓国でもフツウになったとのこと。そして朝夕に洋犬を連れて散歩するのもフツウになったという。
儒教的大家族制度の変化
さらに2人が共通して挙げたのが韓国の家族制度と価値観の変容である。20数年前の結婚当時は男尊女卑の価値観が生きていた。2人とも“男の子を生まなければならない”という親族および世間からのプレッシャーをひしひしと感じたという。
さらに2人の話をまとめると、儒教的な家族制度の下で嫁は夫の両親に絶対服従であり、口答えはおろか質問も許されない雰囲気だったという。そして気を遣うのが四季折々の年中行事。日本の正月やお盆やお彼岸などに相当する行事になると一族が集まるので準備に追われ、顔も名前も覚えられないほど大勢の親族に挨拶して神経を使った。当時は儒教の影響でご先祖様を祀ることが最重要且つ最優先という伝統的価値観が生きていた。それゆえ一族の墓参りは特に大きなイベントだったようだ。
当時は毎日ご先祖様に捧げる“お団子”も自宅で作っていたという。ところが現在では夫の母親ですら“お団子”をスーパーで買って供えるようになり、ご先祖様の墓参りも年々参加者が少なくなり儀式も簡略化しつつあるという。
こうして日常生活における儒教規範の束縛が緩くなり、他方で地方の町でもコンビニやカフェやファーストフードが普及するにつれて女性の友人どうしが連れ立って外食でランチしてカフェすることが許容される社会的な雰囲気が醸成されたとHさんは感慨深げに語ってくれた。
単身赴任生活を楽しむ57歳会社員の楽しみは63歳からの年金生活
7月11日。工業団地が広がる平沢ピョンテク。ピョンテクには起亜自動車の主力工場があり自動車部品を運ぶトラックが日夜を違わず走っている。起亜自動車の広大な敷地の湾岸の反対側には現代製鉄の溶鉱炉が聳えている。
ひょんなことからナム・チョル氏、57歳と知り合った。初対面で溌剌として颯爽としたスポーツマンという印象を受けた。折からの雨でテントの設営場所を探していたら、彼の住んでいるマンションの最上階の踊り場を提供してくれたのだ。
ナムさんは仁川出身で家も家族も仁川であり、ピョンテクに転勤になり単身赴任している。工場の勤務時間は午前7時から午後5時まで。
ナムさんは会社の卓球クラブに属しており対外試合や大会に参加して腕を磨いている。自転車も趣味といいマンションの部屋の壁にはイタリア製の競技用自転車が掛けられていた。日本円で100万円くらいの高級車だ。さらに奥の部屋にはトレーニングマシンが鎮座していた。そして最近は車にテントを積んで景勝地に行き“ソロ・キャンプ”を楽しんでいるという。そうしたことから筆者に親近感を覚えたらしい。
63歳で定年となり退職金と年金が支給されると6年後を楽しみにしていた。運動や趣味を楽しみ健康的生活をエンジョイする人々をハングルではウェルビン・ジョク(Well-being族)というが、まさしくナムさんはその一人であろう。
夜明け前から遊歩道や公園は中高年のウェルビン族で賑わう
韓国では海辺や河川敷や市街地にある公園の東屋にテントを設営してキャンプした。当初当惑したのが午前3時半頃から人の気配がすることであった。人が歩いてテントに近づいて来るような僅かな足音に緊張が走る。草木も眠る丑三つ時ではないが、午前4時前は真夏でも真っ暗である。
悪い奴が襲ってくるのではないかと身構えて、即時防戦するために眼鏡をかけて懐中電灯とホイッスルを手に持ってテントの窓から周囲を窺う。注)ちなみにホイッスルは緊急時に助けを呼ぶために放浪旅では常に携帯している。すると老人がゆっくりと歩いてくるのが見える。年寄りの早朝散歩であることを確認してから安堵して再び寝袋にもぐるということが何度かあった。
5時頃になり東の空が薄っすらと明るくなり始めるころには公園の遊歩道は三々五々と散歩する中高年の人々で賑やかになる。ランニングするグループも通る。公園の自転車専用道路はマウンテンバイクやレーサーに乗った中高年が颯爽と走る。
日本でも朝の公園は中高年の姿が目立つが、韓国では健康増進活動に勤しむ中高年で早朝の公園や遊歩道は日中の何倍もの人出で賑わうのである。