先進国のなかでもダントツ最低、韓国の合計特殊出生率
2022年の韓国の出生率は0.78。日本でさえ2022年は1.26であり、少し古いが2020年のOECDの平均出生率は1.59である。いかに韓国の出生率が異常に低いか一目瞭然だ。
2014年に海外放浪を開始以来これまで世界各地で頻繁に韓国の若者と交流してきた。男女問わず韓国の若者が嘆くのが韓国社会の“生き辛さ”である。苛烈な競争社会、就職難、序列社会、重い家族制度、若年層の高失業率などなど。祖国を捨てて米国、カナダ、オーストラリア等へ留学&移住を希望する数多の韓国の若者。
韓国社会では少数派の勝ち組女性の人生設計
7月20日。益山市駅前のカフェで出会った20代後半の女性は韓国鉄道公社に勤務するエリート。2年前に半導体技術者の夫と結婚してソウル市内のアパト(ハングルでアパトは高層マンション、タワマンを指す)住まい。
8月に休暇を取り夫の欧州出張に同行。アムステルダムのゴッホ美術館に行きたがったが事前予約制で滞在中に予約が取れなかったと残念がっていた。彼女は美人で幅広い教養もあり旦那もエリートという韓国社会では絵にかいたような勝ち組の1人だろう。
彼女によるとやはり結婚しない友人は多いという。学歴のある女性は結婚よりもキャリアを優先する傾向があり、キャリアを犠牲にしてまで結婚したくないという価値観がキャリア女性では一般的という。
韓国でも育休制度が導入されてきて、韓国鉄道公社では2年間の育休制度があるので安心して子供を育てられると。やはり2人くらい子供が欲しいという。日本と同様に大手企業勤務で育休制度が充実していればフツウに2人くらい出産するという人生設計が可能になるようだ。
フツウの大卒女子が考える少子化の要因
全州の観光施設に勤務する25歳の女性は全州市の私立大学を卒業。就職難から地元の観光施設で働いているがソウルの大手企業に比較して給料も低く将来の展望も開けないと嘆いた。
十分な貯蓄もできず“お金がないから結婚、子育てが不安”というのが一般的な20代、30代の現状であるという。韓国は国家としては先進国になったが若年失業率が高くフツウの若者はお金がないので明るい未来が見えない。
さらに韓国では人々は社会、世間、他人の目を気にしながら生きている。収入、学歴、資産などで『お互いに相手を格付けする』息苦しい社会と吐露した。
少子化の影響が顕著な学校教育現場
7月25日。全州中心地から約20キロ南の山間部。幹線道路沿いに新しい立派な小学校があった。大きな体育館やプールもある。近隣の老人によると過疎化と少子化で二つの小学校を合併して新しい校舎を建てた。ところが現在では全校生徒30人足らず。他方で公務員の教職員は減らせないので30人もいると嘆いた。
7月30日。光州市内の公園で米国人カップルに会った。2人は光州市内からバスで1時間の距離にある農村部の小学校分校で英語の補助教員をしている。2人は週に21コマの英語の授業を受け持っている。
分校は1学年2~3人なので複式学級。近々統廃合される可能性が高く同僚の韓国人教師は処遇がどうなるか戦々恐々としているという。
やり手の起業家が分析する少子化の背景
7月21日。春浦は益山市の郊外に位置し戦前から米作が盛んで日本統治時代は日本の投資家が不在地主として所有する水田が広がっていた。細川元首相の祖父はそうした投資家の1人であったという。現地の広大な水田経営は日本人の番頭が采配を振るっていた。J氏は番頭の旧日本住宅を買い取り、敷地の一部でカフェやゲストハウスを経営している。J氏は40代後半。益山市中心部で育ちソウルの大学を卒業して長らくソウルの財閥系企業に勤務していたが故郷で起業するためUターンしたという経歴。
J氏によると韓国では政治不信が根深い。朴槿恵、文在民、尹錫悦と大統領が交代するたびに政策が大きく変わり、前政権の政策は否定される。継続的に安定した政治が期待できないから安心して将来設計ができない。
他方で多くの若者が海外旅行を通じて欧米の社会を知ることで価値観が多様化した。従来の結婚して家族を作るという人生設計が色褪せたものに思えるようになった。結婚・子育てに金や時間や労力を費やすことで人生を無駄にしたくないと考える20代、30代が主流になってきた。つまり“自分の人生を楽しむ”という風潮。
同時に若者の大半が大卒となり、高収入で自己実現できる“良い仕事”を得るのは至難な状況から結婚・出産が経済的に難しくなっていることが追い打ちをかけていると分析。
J氏自身も息子が1人いるが2人目は望まなかった。J氏夫婦も時間とお金を2人目の子育て以外に使うという選択をしたのだ。