そのようななかでの大統領選への出馬を正当化するには、プーチン氏には相当の〝理由付け〟が必要だった。その意味で、ロシアが「戦果」として占領したウクライナ東部の軍人からの、プーチン大統領への再出馬の要請は、プーチン氏の再出馬を正当化できる最大限の理由だと政権側は考えたに違いない。
北極圏で封じ込め
プーチン政権は一方で、大統領選での圧勝をおぜん立てるために、これまで以上に反体制派の封じ込めにやっきになっている。その象徴が、アレクセイ・ナワリヌイ氏の北極圏送りだ。
ロシア当局はナワリヌイ氏を繰り返し拘束、拘留して、23年8月には過激派団体を創設したとの罪で、懲役19年の判決を下した。同氏は刑務所に入れられていたが、12月に入り、突然動静が不明となった。
処刑されたかもしれないとの懸念が高まったが、ナワリヌイ氏は同月末、ロシア北部ヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移送されていたことが判明した。外部はマイナス30度にもなる、永久凍土に覆われた同刑務所は、かつて旧ソ連の強制収容所として利用されていた場所だ。同氏の活動は完全に封じ込められた格好で、政権の強い警戒感がにじみ出ている。
3月のロシア大統領選をめぐっては、ウクライナ侵攻を批判する独立系のジャーナリストが中央選挙管理委員会によって出馬を拒否されるなど、あからさまな政敵の排除が進む。〝体制内野党〟と揶揄される、実質的に政権の一部となっている野党や、一部の改革派が出馬する見通しだが、プーチン氏に脅威をもたらす可能性はまずない。
再選支持一色が意味すること
一方的に仕掛けた戦争で、自国の兵士30万人以上が死傷し、さらに兄弟国家とされた隣国への破壊を続けるリーダーに対してロシア国民はなかば無感情に投票することを余儀なくされる。政権からのメッセージは明確であり、それに従わない危険を冒すロシア人はほとんどいない。
ロシア国内のメディアも、プーチン氏の再選を強く支持する。
象徴的だったのは、〝高級紙〟と位置付けられる「独立新聞」の報道だ。同紙は12月26日に掲載した「今年の重大ニュース」のランキングで、プーチン大統領の再選出馬を第1位に掲げた。記事の大半は、今後の正式な出馬へのプロセスを延々と紹介するものだったが、再選出馬が確実視されるプーチン氏の出馬をあえて1位に選ぶ状況にも、メディア側からの政権への〝配慮〟が強く感じられる。
今回の大統領選はウクライナ侵攻開始後で初の大統領選になるため、多くのロシア国民にとり、その投票行動はプーチン氏の言動に「賛成する」との意思を国内外に表示することにつながる。その行動により彼らは、侵攻の連帯責任を、明確に負うことになる。
この一線を越えれば、プーチン政権が国内の独裁体制強化をさらに加速することは必至だ。反体制派に対する圧力を強め、国内の言論統制が進む。社会の硬直化が進み、軍事面においても、より苛烈な作戦が遂行されることは確実だ。