戦況、経済で優勢を誇示
プーチン大統領は同月中旬に行われた大規模記者会見で、こう強調した。
「われわれの目標は変わっていない。つまりそれは、ウクライナの非ナチス化であり、非軍事化、中立化だ。もし彼らが、非軍事化に応じないのだとすれば、軍事的手段を含めた対応を行う必要がある。ウクライナは今日、すでにほぼ、何の(武器の)生産も行っていない。彼らは、他国からの供給でそれをまかなっているだけだ。しかし、それはいつかついえるのだ」
発言からは、ウクライナ侵攻で優位な立場にあると誇示するプーチン氏の強い意図が伺える。戦況においては、ロシア軍は12月末にはウクライナ東部ドネツク州の激戦地マリンカを陥落させるなど、守勢にまわるウクライナ軍に対し攻勢をかけている。国民が懸念する追加の動員も、十分な志願兵がいるとし、否定した。
経済面でも、ロシアは23年の国内総生産(GDP)成長率が3.5%を記録したとみられるなど、プーチン氏は厳しい欧米諸国の経済制裁に耐えた事実を強調した。欧州などが買い控えた原油を中国、インドが代わりに買い支えたほか、兵器生産のための公共投資が経済を押し上げたとみられている。日本のGDP成長率が1.7%、ドイツがマイナス成長に陥ると予想されていることを考えれば、プーチン氏がその成果を誇示することは不思議ではない。
この傾向は、24年も劇的に変わることは考えにくい。消耗品である兵器への公共投資は、再投資にはつながらず国家の中長期的な経済成長にはつながらない。ただ、一定の成長を維持する効果はあり、短期的にはその矛盾に気づきにくい。
中国、インドの資源輸入においても、両国がロシア産原油を安く買いたたくことができるという構図がさらに深まるものの、経済的に孤立させるという当初の制裁の目論見は外れてしまったのが現実だ。
進められる全体主義的な政策
ただ、ロシア国内でその先に待ち受けているのは、さらに〝声を上げられない〟社会の深化だ。国民は、投票を経てウクライナ侵攻に全面的に「賛同」したとの言質を取られる。プーチン氏の行動に制限をかける権利は、彼らにはもうない。
プーチン氏が大統領選後、具体的にどのような施策を進めるかは不透明だ。ただ確実に手を付けると考えられるのが、プーチン氏が強い執着を持つ、ソ連の復活を思わせる全体主義的な施策だろう。プーチン氏はソ連崩壊を「20世紀における、地政学上の最大の悲劇」と言ってはばからない。
プーチン氏は22年、多産した女性を表彰するソ連時代の勲章制度の復活を打ち出したほか、ソ連版のボーイスカウトと呼ばれた「ピオネール」活動を復活させた。ソ連時代に、国の人口維持や優れた共産主義者を輩出することなどを目的に実施された施策であり、国家主義的な色彩が極めて強いものだ。
ウクライナ侵攻後、政権に不満を持つ多くの若者らが国を去った結果、ロシア国内の反政権活動は、一層弱体化した。24年のロシアは、大統領選を経て翼賛体制が進むのは必至で、プーチン氏の動きに国内からブレーキをかけることはほぼ期待できなくなる。ソ連崩壊後、民主主義の歩みを進めたはずのロシアが、その歩みを止めてソ連に回帰するという厳しい現実に、国際社会は直面することになる。