負け続けるバイエル社
結局、判決はどうなったのか。
18年8月、陪審員は、モンサント社が発がん性について「悪意を持って隠していた」として懲罰的賠償を含む2億8900万ドル(1ドル150円として約430億円)の判決を下した。バイエル社は再審を請求した。この判決は日本でも大きなニュースとして伝えられた。
しかし、発がん性があると言っているのはIARCだけであり、先進国のどの政府・公的研究機関も発がん性がないと言っている中で、なぜ、原告が勝利したのか。後で述べるように、弁護士はバイエル社内の私的なメールを入手して、これを基にして都合がいい筋書きを作り出すという巧みな戦略で陪審員の心をとらえたのだ。
バイエル社はすぐに再審を請求した。
2カ月後の18年10月、裁判官は賠償金を7850万ドルに減額し、バイエル社の再審請求を却下した。その後、バイエル社の劣勢は続いた。
19年3月、2番目のハードマン裁判でも旧モンサント社が敗訴し、8000万ドルの懲罰的賠償金判決が出た。
19年5月、3番目のピリオド裁判でも旧モンサント社が敗訴し、これまでに最高の20億ドル(1ドル150円だと約3000億円)の懲罰的賠償金判決が出された。この衝撃のニュースは世界中に報道されて、「ラウンドアップは危険」という「都市伝説」が出来上がった。この訴訟を担当したウイズナー弁護士は一躍ヒーローとして大きく報道された。
バイエル社は控訴したが敗訴した。ロイター通信(22年5月11日付)は、バイデン政権がトランプ政権の方針を覆して控訴を審理しないように最高裁に要請したと報道している。同社はそれまでに起こされていた12万5000件以上の訴訟の原告に109億ドル(1ドル150円とすると約1兆6000億円)の和解金を支払うことに同意した。和解に持ち込んだのは、原告約10万人を代表するニューヨークの法律事務所ワイツ・アンド・ラクセンバーグだった。
IARCの発がん性分類で大儲けができるとにらんだ弁護士たちの目論見は見事に成功したのである。
ところが、23年になって形勢が変わり始めた。和解をしなかった原告の裁判はその後も続いていたが、23年に行われた裁判のうち9件では一転してバイエル社が勝訴した。
風向きが変わった原因の一つは、IARCの裁定の内幕が明らかになったことだ。しかし事態はそれほど甘くはなく、23年に行われた裁判のうち4件では敗訴した。
陪審員はラウンドアップの欠陥や企業の過失は認めなかったが、リスクについて警告を怠ったことを認めた。欠陥がないのになぜ警告が必要なのか、理解できないことが多い。そして法律事務所は現在もなお訴訟希望者を募集している。