2024年4月15日(月)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2024年3月6日

 驚くべきことに、ブレア氏はラウンドアップに反対する環境団体である「環境防衛基金」(EDF))の上席研究員でもあった。そのような人物がなぜIARCの評価パネルの委員長に就任したのか、その利益相反をIARCはなぜ調査しなかったのか。そうした多くの疑惑についてIARCは答えていない。そして、IARCはあらかじめ決められた結論に合うように証拠を再編集したという世界の研究者がもつ疑惑は晴れていない。

法律事務所の思惑

 ここまでは科学者の話だが、さらに驚いたことに、これらの科学者を動かしていたのは米国大手弁護士事務所だったという疑惑が浮上したのだ。闇に隠れていた統計学者のクリストファー・ポルティエ氏の存在があぶり出されたのである。

 15年3月にIARCがグリホサートの評価を発表したが、その直後に弁護士事務所は訴訟希望者を募集している。なんとその時期にポルティエ氏は二つの法律事務所の訴訟コンサルタントを務める契約を結んでいたのだ。

 そして契約を結んだことを秘密にするという契約も交わされていた。これについてポルティエ氏は、グリホサートに関する仕事で一セントも受け取ったことはないと主張してきた。

 ところが、17年10月に英国のタイムズ紙は、ポルティエ氏が法律事務所から2000万円を受け取っていたことを報道した。さらに彼はグリホサート反対運動を展開している反科学的環境団体「環境防衛基金」からも支払いを受けていることが判明した。こうしてポルティエ氏の明確な利益相反が明らかになった。

 IARCの評価の直後にこれらの法律事務所がTVコマーシャルを開始して、数万人のがん患者を集めた手際の良さもまた驚くべきものだが、弁護士事務所がIARCの評価結果を予め知っていなければこのような離れ業はできない。

 それでは弁護士事務所はなぜこの問題に加担したのだろうか。

 米国には懲罰的賠償金という制度があり、驚くような高額の賠償金判決が出されることがある。そしてそれが米国の弁護士事務所の大きな収入源になっていた。

 例えば、14年には肺がんで死亡した男性の妻が米国大手タバコ会社R.J.レイノルズを訴えて、2兆円以上の懲罰的賠償金の支払いを命じられた。弁護士事務所には数千万円の収入になる。そのほかにも多くのたばこ訴訟が行われ、弁護士事務所の大きな収入源になった。ところが、たばこ訴訟はそろそろ終わりに近づき、弁護士事務所は新たな収入源を探していた。

 そのような事情から、次のような推測が行われている。ポルティエ氏はブレア氏やその他の環境団体の息がかかった科学者と共にIARCに入り込み、弁護士事務所の訴訟キャンペーンの大きな手助けになる評価を出し、その功績を持って弁護士事務所とコンサルタント契約を結んだ。

 こうして弁護士事務所もポルティエ氏も高額の収入を得ることができた。また、ブレア氏などが所属する環境団体には多額の寄付金が集まった。

 ポルティエ氏が批判されて失脚することは環境団体にとっては大きな損失になる。そこで環境団体は彼を弁護し、ケランド記者などを批判するキャンペーンを展開している。

フェイクを見抜く 「危険」情報の読み解き方
唐木 英明:著 ,小島 正美:著
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