また、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査」では、正社員の51%、非正規社員の46%が「賃金は仕事内容に比べて低い」と感じており、労働者の半数近くが仕事内容に見合うだけの賃金を得られていない状況が示されています。しかし、会社に賃金を上げてほしいと要望する労働者の割合は、わずか25%程度で、しかも、その多くが公式な場ではなく、雑談の中で賃上げを要望したことが明らかにされています。
海外では労働者が企業と賃金について交渉するのが一般的なのに対して、日本では労働者が賃金について声を上げることが珍しいのです。ただし、これは決して「ボイスを上げない労働者が悪い」という話ではありません。日本の雇用慣行のもとでは、賃金は年功序列で決まっており、労働者個人が賃金に関与する余地は少ないのが現実で、日本では労働者が賃金を交渉するという風土がありません。
先述の「5カ国リレーション調査」でも、賃金の決定要因として「個人と会社の個別交渉」を挙げる労働者の割合は、日本では20%と他国の3分の1程度にとどまっています。さらに、賃金の決定要因が「わからない」と回答している日本の労働者の割合は33%で、次いで高いデンマークの18%よりも、15ポイントも高くなっています。
雇用維持を優先させてきた日本の労働組合
ボイスを上げないのは労働者だけではありません。労働組合も近年、賃上げ交渉に対して消極的でした。
そもそも、労働組合は組織率が低下、存在感を失いつつあります。労働組合の組織率は1949年の56%をピークに、低下の一途をたどっています。1980年頃には約30%まで低下、2000年代頭に20%を切り、2022年には16.5%となっています。
労働組合の重要な役割は賃金交渉ですが、日本は他国に比べて労働組合の存在感が乏しいのが現状です。リクルートワークス研究所「5カ国リレーション調査」では、賃金決定の重要な要因として「労働組合と使用者の団体交渉」を上げた人の割合は、日本は20%で最も低くなっています。日本経済が長期停滞する中で、労使交渉において賃金の引き上げよりも雇用の安定を優先することが「公正」とされたことも、賃金が上がらなかった原因のひとつとなっています。