2024年12月20日(金)

近現代史ブックレビュー

2024年4月17日

 近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載「近現代史ブックレビュー」はこうした状況を打破するために始められた、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。
わが青春無頼帖 増補版 柴田錬三郎
中央公論新社 924円(税込)

 ニヒリスト剣客「眠狂四郎」の原作者として知られた昭和後期を代表する人気作家・柴田錬三郎の自伝的回想である。

 柴田は慶應義塾大学文学部中国文学科卒、勤務の後応召し、輸送船でバシー海峡を航行中に米軍の潜水艦に沈められ、7時間生死の狭間を漂って生還した。

 戦後は、佐藤春夫に勧められて書いた小説が芥川賞・直木賞候補となり、第二作の『イエスの裔』で直木賞を受賞する。そして、週刊新潮の連載小説『眠狂四郎無頼控』によって爆発的な人気を得ることになる。

 柴田は、敗北必至の日米戦争での死はどうしても避けたいと思い自分の身体への損傷による兵役拒否を実行したりしたが、結局は召集され、前記のような結果を迎えた。したがって日本の軍隊には強い反感を持っており、低い階級の兵士がいじめられたことを詳しく書いている。

 また、柴田は軍隊を通してみて、「大学出のインテリ」は自分自身を含めて汚い仕事や苦しい使役を避けたがる卑屈な人たちだったと記述している。軍隊で人の嫌がることを進んでやる献身的で素朴な美しい心根を持った「神のごとくであった日本人」というのは、軍人勅諭の暗記すらできなかった小学校卒のような人だったという。

 柴田は、このように「反軍的インテリ」の典型なのだが、インテリを信用できず、どこまでも信頼したのは日本の庶民の方であった。ここには、ある種の絶望感と庶民への信頼・ヒューマニズムとの両方があるように思われる。


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