2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2024年3月26日

 経済状況も同様に憂慮すべき状況だ。反政府派のロシアの経済学者ウラジーミル・ミロフは、国家が戦争に直接関係する4つの部門(弾薬、鉄道、軍事安全保障、機械製造)に巨額投資を行っている一方で、消費財部門への投資は削減、あるいは最小限の増加にとどまっていることを示した。

 したがって、国内総生産(GDP)は成長しインフレは低いというプーチン大統領の主張は、平均的な国民が軍国主義の祭壇で犠牲にされているという現実を隠している。ミロフ氏は「ロシア人は過去5年間、特に過去2年間で著しく貧しくなった」と論じている。

 以上がモティル博士の議論だ。

 ロシア問題の著名な専門家であるのヤヌシュ・ブガイスキ―氏(ジェームスタウン財団)は24年3月23日付のポスト(ツイート)で、ロシア帝国の解体を予告して次のように書いている。「ウクライナを侵略することによって、ロシアは自ら手に負えない嵐を引き起こし、結局ロシア帝国を解体させるだろう。テロやサボタージュ、治安当局への挑発、権力闘争、経済の破綻、市民戦争、地方の反乱などがモスクワの政府を圧倒するだろう」と。

警察治安国家ロシアの失敗

 そして、3月22日のテロ事件で、プーチン大統領は事件発生後20時間も経過してからやっと事件を国民に報告し、犠牲者に弔意を示した。国際世論はこの遅延に強く注目している。今後多くのことが明らかになるだろう。

 今回のテロ事件に関しては既に多様な議論が巻き起こっている。米国が事前にテロを警告したが、ロシアが無視したという報道もある。無視した理由はロシアの筋書きに合致しなかったからだという。

 プーチン大統領の自作自演だという議論もある。 ウクライナ戦勝利に向けて兵力大動員を正当化する為の仕掛けだったという議論まで起きている。 イスラム過激派組織(IS)は自分たちがやったと云っているのにプーチン大統領はウクライナを非難している点も議論になっている。 

 以前からプーチン政権と対立しロシアの民主化運動を進めてきたロンドン在住の富豪のホドルコフスキー氏はこのテロ事件に関し、X(旧ツイッター)でこう論じている。

 「プーチン大統領は抑々特別の支持層というものが無い。誰にも答える責任を負っていない。国民の支持にも依存していない。依存しているのは唯一警察・治安組織だけである。今回はその当の警察治安国家ロシアが失敗したということだ」 と。

 米国のNew Yorker 誌はテロ事件の前日、ロシアは完全な軍事独裁国家(full-blown military dictatorship)になったと論じた(’Has Putin’s Invasion of Ukraine Improved His Standing in Russia?’ The New Yorker, March 22, 2024)。 

プーチン政権、そしてロシアはどうなるのか?

 私見ではこれは明らかにプーチン政権にとって最大の危機である。ウクライナ侵攻開始以降、ロシア人にとっては俗にいうと「これまでいいことは全くなかった」。

 今回のテロ事件はロシア国民のプーチン氏への信頼をぶち壊し、既に疑問符が付いていたロシアという国の将来を一層予見困難なものにした。 事件後ガーディアン紙は「プーチンは強硬策で打開しようとするだろうがロシア人は大統領の言い分を信用しないだろう」と論じている(’Putin will be ruthless after the Moscow attack but Russians don’t trust him to keep them safe’ The Guardian, 24 March 2024)。

 ロシアは今後どうなるか? 歴史的な転換が起きるかもしれない。一切予見は出来ない国がどう動くか? 目が離せない。 

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