本稿が公開される3月15日から17日にかけて、ロシア大統領選挙が実施される。同国の政府系調査機関「全ロシア世論調査センター」が実施した世論調査からは、現職のプーチン大統領が圧勝する見通しが鮮明になっている。プーチン氏の支持率は75%にのぼり、他候補の10倍超の支持を集めている。
しかし、ウクライナ侵攻に反対する勢力を徹底的に排除した今回の選挙が、ロシアの民意を正しく反映しているとは言いがたい。筆者のロシア人の知人は「実際は、国民の4割はウクライナ侵攻に反対している。ただ、調査では本当のことを言えないだけだ」と打ち明けた。事実ならば、侵攻を主導するプーチン氏が圧勝するという構図は、民意を正確には反映していない。
別の知人は「プーチン氏に投票しなければ、職場から解雇されるか、給与を剝奪される」とも語った。一般国民であっても、プーチン氏に投票すれば、それはウクライナ侵攻への支持と同意になる。しかしロシア国民は今、好むと好まざるとにかかわらず、そのような行動をとらざるを得ない状況に追い込まれている。
〝精密〟な国家管理システム
露紙イズベスチヤ(電子版)によれば、3月2~3日に実施された全ロシア世論調査センターの調査では、回答者の7割が「必ず投票に行く」、1割が「おそらく投票する」だった。また、現職であるプーチン大統領を支持する割合は75%にのぼり、一ケタのほかの3人の候補に圧倒的な差をつけているという。ただ、残りの3人はプーチン体制を支持する「体制内野党」からの出馬で、選挙は実質、無風状態で行われる。
ロシア政府はプーチン氏が8割以上の得票をすることを目標に掲げていると報じられており、事態は筋書き通りに進んでいる。しかし、現在の支持率を正確な民意の表れと見なすのは、正しいとは言い難い。
「なぜ多くのロシア人が今でもプーチン氏を支持しているのか。それは、簡単に言えば、恐怖とプロパガンダ、そして貧困が理由だ。これらは、プーチン氏が精密に構築した、国家管理のシステムなんだ」
3月20日発売の拙著『空爆と制裁』でも紹介したが、ロシア国外に在住する筆者の知人の若いロシア人らは、プーチン氏の圧倒的な支持率は、民意を正しく反映していないか、もしくは、〝支持せざるを得ない環境〟に置かれているのだと強調する。