2024年11月22日(金)

一人暮らし、フリーランス 認知症「2025問題」に向き合う

2024年4月5日

中鎖脂肪酸と認知症

「ケトン体を作りやすい食事は、ケトジェニックダイエットやケトン食と呼ばれていますが、そもそも難治性てんかんの治療に活用されており、認知症を含む神経変性疾患などの治療にも役立つのではないかと考えられていました。実際に、2009年には中鎖脂肪酸を摂取することにより軽度から中等度のアルツハイマー病の認知機能が改善したことが報告されるなど、専門家の間では注目されるようになっていました(→注1)。

 日本で中鎖脂肪酸を主成分とするココナッツオイルの摂取が認知症の症状改善に役立つ可能性があることが広まったのは、2013年に発売された、米国の小児科医、メアリー・T・ニューポート医師が著した『アルツハイマー病が劇的に改善した! 米国医師が見つけたココナツオイル驚異の効能(SBクリエイティブ)』という本がきっかけだろうと思います。著者の夫は若年性アルツハイマー病にかかるのですが、著者がココナッツオイルを夫に摂取させたところ、認知機能に大きな変化が現れたのです」

 どう摂取するといいのだろうか。

「ココナッツオイルやMCTオイルは、毎日スプーンで直接、または飲み物に混ぜたり、おかずにかけたりしてとってみてください。特に試していただきたいのは、『最近、もの忘れが増えたかもしれない』と感じているような人です。ココナッツオイルをとって脳がスッキリしたと感じた人は、脳にブドウ糖がうまくとり込めなくなっている可能性があります」

 量はどうか?

「先行研究(→注1)では、MCTオイルを1日に1回、20gを使用しています。ココナッツオイルでいうと、およそ大さじ2杯分です。多いと思われるかもしれませんが、ケトン体を体内で作るには、一度にある程度の量の中鎖脂肪酸を摂取する必要があるのです。少しずつとってもケトン体はなかなか作られません。また、糖質と一緒にとるとケトン体は作られにくくなります。アルツハイマー病の方がケトン体を作る目的でココナッツオイルを使用する場合は、普段から甘いものや炭水化物を控えて、空腹時にお茶やコーヒーなどに混ぜて飲むとケトン体が作られやすくなります」

 なるほど。治療が目的の場合なら、上記量の摂取を守りたいところだが、対策目的で取り入れる場合は、量を減らしてもいいのだろうか?

「摂取量が不足していたり、糖質と一緒にとったりすると、中鎖脂肪酸の油をとっても、ケトン体は十分に作られないことがあります。ただその場合でも、サラダオイルなどの一般的な油からMCTオイルやココナッツオイルに置き換えたのなら、中鎖脂肪酸の油はすぐにエネルギーに変わるので太りにくくなるメリットはあります」

 単純に、もともとの食事に中鎖脂肪酸の油を加えるのは、カロリーオーバーになりやすいので注意する必要があるという。

 また、良質な油をとると言う意味では、抗酸化・抗炎症力のあるオリーブオイルや青魚なども、毎日とるといいのだそう。

「これら良質な油のほかに、毎日の食事でしっかりとたんぱく質もとりましょう。ケトン体を増やす目的で糖質を減らした場合でも元気に活動するためには、たんぱく質が欠かせません。それにたんぱく質を多くとると、特に記憶力に関係するアセチルコリンという神経伝達物質の材料となるコリンという栄養素が体内で合成されるので、認知症を回避するためにも、たんぱく質を十分な量、毎日とるのはとても大事です」
  
 良質な油を意識するのと同時に、大豆製品や肉、乳製品などとバランスよくとる必要があるのだ。
(続く)

(→注1)参考文献:2.Henderson ST, Vogel JL, Barr LJ, Garvin F, Jones JJ, Costantini LC. Study of the ketogenic agent AC-1202 in mild to moderate Alzheimer’s disease: a randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter trial. Nutr Metab (Lond) 6: 31, 2009

【今野裕之先生】
医学博士。ブレインケアクリニック名誉院長、一般社団法人 日本ブレインケア・認知症予防研究所代表理事、所長。順天堂大学大学院にて、老化予防・認知症予防に関する研究を行い博士号を取得。大学病院や精神科病院での診療を経て2016年にブレインケアクリニックを開院。各種精神疾患や認知症の予防・治療に栄養療法やリコード法を取り入れ、一人ひとりの患者に合わせた診療にあたる。また、認知症予防医療の普及・啓発活動のため2018年に日本ブレインケア・認知症予防研究所を設立。著書・監修に「最新栄養医学でわかった! ボケない人の最強の食事術(青春出版社)」など。最新刊『ボケたくなければ「寝る前3時間は食べない」から始めよう 認知症診療医に教わる最強の生活習慣』(世界文化社)が5月30日発売予定。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本抗加齢医学専門医。
【リコード法】
カリフォルニア大学名誉教授・デール・プレゼデン博士が開発した認知症の治療プログラム。リコード法の公式サイト(APOLLO HEALTH https://www.apollohealthco.com)によると、日本の認定医は2024年2月末時点で5名。ただし、今野先生によると「リコード法に準じた食事法などを治療に取り入れる医師や医療機関は増えつつある」と言う。治療は自由診療となり、金額は医療機関により異なる。
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