例えば、奈良県高取町にある「壷阪寺」は、御本尊が十一面千手観世音菩薩で眼病平癒の信仰が厚く、人形浄瑠璃『壷坂霊験記』でもその霊験が説かれているが、必ずしもそれがインバウンド客らに広く知られている訳ではない。しかし、境内には座像や立像の大仏がいくつかあり、桜の開花時期には、まるで桜の衣を纏ったような「桜大佛」を見ることができる。
これは極めて絵になるので、その写真をホームページなどで紹介され、広く認知されつつある。フィーチャーした観光ツアーも造成されていおり、インバウンド向けは平均すると日本人向けのツアーの倍程度の価格設定のようである。
できればイベント自体で稼ぐのが理想的だが、それが難しければ、キー・アイコンとして、誘客につなげて飲食・宿泊で稼いだり、個別サービスの付加価値を上げたりする。そのキー・アイコンやイベントが桜のように期間限定のものであれば、その他の観光資源と組み合わせるのである。
期間限定で客が増えるので、飲食などにダイナミックプライシングを適用するのも一つの方法である。ただし、その場合は日ごろの価格を知る地元客から不満が出るので、地元に向けには通常価格になる何らかの割引施策を用意しておく必要があるだろう。
インバウンド客にとっての「花見」とは?
桜は古くからの日本文化に根差してきたのだが、海外でどのように認識されているかを知っておくことでその展開は一層広がるだろう。基本的には海外でも桜のポジションは日本人の平均的な認識とは大きな差はないようである。花見ではその美しさと儚さを祝うということは広く認識されている。
例えば、ドイツで日本の花見を紹介するサイトでは、“日本では、桜の開花は単なる春の儀式ではない。桜は人と自然の絆を象徴している。人々は、桜の木の下でピクニックをしたり、桜の花が最もよく見える場所に出かけたりして、ピンク色の豊かさを祝う。この日本文化の不可欠な部分は、「もののあわれ」の哲学、つまり無常を理解することに基づいている。”と紹介されている。
ただし、桜を伝統文化のみでなく、ポップカルチャーと結びつける傾向も広がってきている。例えばドイツ語で「Hanami Festival」と検索すると、最初に出てくるのでは2006年から続いている「花見 – コン・ミーツ・フェスティバル」だ。
これは日本のポップカルチャーに興味のある人を対象とした、ファンによるファンのための自主イベントで、そのルーツはアニメとマンガである。コスプレコンテストやアニメ・漫画のワークショップ、グッズ販売のイベントなどが宣伝されている。