同様の事情が米国にも確認できる(ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、ベイン、ATカーニーなど)。 なお、EUからアイルランドを除くのは、EU域内に限らず、世界的にもアイルランドが他の追随を許さないキープレーヤーであり、いち加盟国として含めるにはあまりにも影響が大き過ぎるという事情がある。この点は後述する。
そのほか、EU加盟国について言えば、フィンランドが+95億ドルと黒字である一方、ドイツ、フランスがそれぞれ▲102億ドル、▲24億ドルと赤字で、オランダも▲48億ドルと赤字だ。つまり、これらの加盟国以外で細かく黒字が積み上げられた結果、域内全体としてはデジタル関連収支が維持されているのである。特徴を一言で言い表すのは難しいが、通信・コンピューター・情報サービスという純粋なデジタル分野での収支について多くの加盟国が黒字を記録している実情を踏まえれば、EUのデジタル関連収支は決して弱いわけではない。
EU、「デジタル関連収支の核」はアイルランド
なお、アイルランドは影響が大きいゆえ除外したと述べたが、実際、どれほどの存在感なのか。アイルランドの影響は図表③を見れば、百聞は一見に如かずだろう。
アイルランドの通信・コンピューター・情報サービスは+1940億ドルの黒字で、これは米国の12倍、英国の8倍に相当する。アイルランドを入れることで米国を含む他国の状況が矮小化されてしまうため、敢えて図表からは除外せざるを得ないという事情がある。
ちなみに、仮にアイルランドを含めた場合、EUのデジタル関連収支は+812億ドルとなり、英国の+692億ドルを超える。EUのデジタル関連収支自体、アイルランドにほぼ規定されてしまう。
アイルランドは法人税率の低さや、欧州では珍しく公用語が英語であること、教育水準が高いこと(例えば大学進学率の高さ)などから世界的な大企業がグローバル本社を構えたり、欧州本部を構えたりすることで元々知られているが、その特徴がサービス収支に凝縮されている。とりわけ通信・コンピューター・情報サービスが大きい背景には世界最大のコンサルティング企業がグローバル本社を構えていることや、GAFAMの一角が欧州本部を構えていることなどが指摘できる。
ちなみに英国のEU離脱以降、アイルランドに拠点を移す企業が増えたことも近年のアイルランドの存在感を高めているという話もある。文字通り、アイルランドはEUの「デジタル関連収支の核」であり、世界的に見ても無視できない存在感を放っている。このような事情から、デジタル関連収支を国際比較したい場合はアイルランドを入れることで全体の議論が見えにくくなってしまうという事情があるためであり、恐らく除外した方が良いと筆者は思う。