2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2024年5月1日

 韓国半導体産業と比較すると、韓台の違いは明確です。台湾半導体産業が強いのはCPUやGPUなどのロジック半導体です。その製造はクライアントごとに異なるニーズに応える必要があり、前述のサービス業としての性格が強くなります。

 一方、韓国が強いのはメモリ。こちらは汎用品なので勝負の鍵はクライアント対応ではなく、最適のタイミングでどれだけ巨大な投資できるかという判断となります。台湾のメモリは韓国に敗れ衰退していますが、勝敗の理由は産業や企業の性格、文化といったところに由来しているわけです。

米国、日本への進出は成功するのか

――台湾に製造拠点を集中させていたTSMCですが、今後は日本や米国への製造を拡大していきます。強みの文化を維持することはできるのでしょうか。

 それは今後の大きな課題です。そもそも、台湾ですら若者世代は我慢がきかず、辛い仕事を嫌がるようになってきていると言われています。

 TSMCには約6万5000人の従業員がいて、そのうち5万人がエンジニアですが、その90%超が台湾人です。台湾の優秀な人材はみんなTSMCに行くとまで言われていますが、今後は台湾だけで人材を充足させることはできないでしょう。すでに東南アジアやインドでの人材採用を始めているほか、今後は日本からの採用も増えるでしょうが、今のTSMC文化を守れるのかは一つのチャレンジです。

 一方で、国際化人材の少なさは弱点でもあります。米国での工場運営では国際化人材の不足に由来するカルチャーギャップに苦しむことになるでしょう。

 先ほども申し上げたとおり、アジアのような製造業文化がない米国での工場運営は困難を極めると予測しています。物価の高さもあり、米国製造品はかなり割高になるはずです。

――それでも進出したのは米政府の圧力でしょうか。

 最終的にはTSMC側の判断です。私の見立てでは2つの理由があります。

 第一に広く報じられているとおり、補助金や減税措置が魅力だったこと。そして、第二にインテルやサムスンなど他の企業も進出するなか、手を挙げないのはリスクだと考えたからです。

 他の企業も一緒にコスト高という罠にはまれば条件は一緒で、リードしているTSMCは差を詰められない。進出しなければ、万が一にも他の企業が成功すれば、追い上げを許すきっかけとなりかねない。

 ともあれ、米国工場で製造した半導体が割高になることは間違いありません。安全保障のために、その差額を負担して購入する量がどの程度になるのかが今後の課題です。


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