2024年6月17日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2024年5月1日

――厳しい見通しですが、日本工場についても同様の見立てですか?

 日本には製造業文化があり、ソニーという大口の顧客がいます。それに日本企業の給与水準はTSMCよりも低く、人件費も台湾より安くなります。それでも半導体製造の産業集積がある台湾よりはコストが上がるでしょうが、米国工場よりは成功する可能性が高いのではないでしょうか。

 問題はラピダスです。先端半導体の製造を目指していますが、実は先端半導体を必要とするクライアントはさほど多くありません。現在ではスマートフォン、パソコン、AI向けなどの限定的な分野に限られています。ラピダスが量産を開始する予定の2020年代後半でも需要に大きな変化はないでしょう。

 となると、少ないクライアントをTSMCやサムスンなどの巨人と奪い合うことになりますが、どのような差別化でそれを実現するのでしょうか。勝ち筋が見えません。

中国半導体はTSMC一強を崩壊させるのか

 ――TSMCには新たなライバルが出現する可能性もあります。米国の規制対象となった中国は猛烈な勢いで半導体国産化を進めています。昨年は中国通信機器・端末大手のファーウェイが中国国産の先端半導体を使ったスマートフォン、AIプロセッサを発売しました。

 中国は製造業文化もありますし、人材、資金もあります。さらに中国国内だけではなく、新興国の市場も見込めるでしょう。政治の大号令に応じて、民間企業が一気に動き出すダイナミズムも脅威です。

 たとえば、中国にはなんと2000~3000社ものIC設計会社が誕生しています。政府が方向を指し示せば、そこに多くの企業、人材、マネーが殺到するわけです。

 ただ、ムダが多いのも事実で、2000~3000社のうち量産工程までたどりつくのは1%しかないのだとか。大半の企業はサンプルを作って、それを実績として政府の補助金をもらったらそれでおしまいとなるようです。台湾のIC設計会社では、50%は量産までたどりつくことを考えると、信じられない数字です。

 このムダをどうとらえるかはともかくとして、中国の実力は確かで、今後、発展する可能性は大いにあります。

 今後、さらなる先端半導体を製造するためにはEUV(極端紫外線)露光装置が必要ですが、米国の規制で輸入できません。ファーウェイは2025年までに国産化するという目標を掲げているとされます。

 リーク情報によると開発は遅れているとのことですが、中国の実力からすればいずれは開発できるとみています。TSMCで使われている、蘭ASMLの露光装置と比べれば性能は劣るでしょうが。

 ただ、それでも米国、欧州、日本、韓国、台湾などグローバルなサプライチェーンで構成されている半導体産業を中国一国で完全に代替できるのかは疑問です。TSMCの強みはアップルやクアルコム、テスラ、NVIDIAなど一流のクライアントと強いパートナーシップを持つことがあげられますが、中国にもファーウェイ、シャオミ、あるいは無数のEVメーカーなど最終製品メーカーが多いとはいえ、中国以外の全世界と対抗できるでしょうか。

 それと、中国の技術の発展は、胡錦濤前政権時代の比較的オープンな社会風土が生み出したものと、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院大学のヤーシャン・ホアン教授は指摘しています。習近平政権下で統制が強まる中、「政治は北朝鮮化、経済は韓国化」を目指しているが、果たしてそんなことは実現可能なのかと疑問を呈しています。

   
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