新たなアプローチがなければ何も始まらない。中国の政治経済の全体像は、WTOの自由貿易の前提に反している。新興国も自由市場の規律にきちんと従うべきだというワシントン・コンセンサスにも反している。
漸く最近になって、西側諸国の政策立案者は、事実をありのままに見つめ始めることが重要だと考えるようになった。われわれは今、転換点に立っている。
WTOのルールは多くの場合、中国を除くすべての国にとっての束縛であるという真実が、益々明瞭になりつつある。
この事態を改善する方策は、現在のWTO制度の中には存在しない。ゼロからスタートし、米国、英国、カナダ、豪州、中国、ドイツ、韓国、台湾といった大きな赤字国と黒字国の中核グループを結集し、確固とした目的に立って紛争を処理できる制度を構築するべきだ。
新しい制度の規律は、多様な政治経済主体を許容するものでなければならない。各国は世界貿易に従事している一方で、自国の経済的政治的安定を守る必要があり、権利があることへの理解がなければならない。
この原則は普遍性がなければならない。それこそ中国の発展過程から得られる最大の教訓だ。
従来の制度は既に崩壊している。安い資本がコストを度外視にして安い労働力を探すという経済モデルは限界に来ている。医薬品不足とWTOの檻の中の戦いが延々と続くだけだ。
当然のことを当然と認めようとしない政府や産業界に対する国民の不信感は高揚している。やはりわれわれは別の道を模索すべきだ。
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加盟国の3分の2が「途上国」を自称
東西冷戦が終了した1990年代初め、それまで西側諸国を中心に深化、拡大してきた関税貿易一般協定(GATT)の枠の中で国境措置を引き下げて世界貿易の活性化を図る制度は、東側諸国や途上諸国に拡大される機運に乗って、WTOが成立した。
中国をはじめとする大きな市場の開発途上諸国をその枠内に迎え入れるべく、それら諸国の主張を容れて優遇制度が導入された。これは「特別かつ異なる待遇」(Special and Differential Treatment 〈S&DT〉)と呼ばれる。発展段階の異なる国々は先進西側諸国と一律の規律を受け入れることは困難だという主張を踏まえた制度だ。
その時の合意として、WTOでは、「途上国」であるか否かは、加盟時の自己申告で決まる。一旦「途上国」だと宣言すれば、その地位を返上しない限り、未来永劫「途上国」に留まることができ、卒業する必要はない。