2024年7月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年5月8日

 164あるWTO加盟国のうち、約3分の2が今でも「途上国」を自称し、国内総生産(GDP)世界第2位の中国や第5位のインド、 1人当たりのGDP世界第6位のカタールや第22位のアラブ首長国連邦が,「途上国」扱いを受けている。経済規模や生活水準に照らし、真の意味での後発の開発途上国の多くには不満が鬱積している。

気候変動の交渉でも中国を利する形に

 とりわけ中国はその原則が自国にも適用されることを、臆面もなく、いやむしろ胸を張るばかりに主張してきた。その態度はWTOなどの貿易交渉だけではない。気候変動交渉の場でも同様である。

 中国は、日本のような先進国は二酸化炭素排出の削減義務があり、一旦達成した暁には更に高い目標を宣言しそれを達成する義務があるとする一方、途上国である中国にはそんな義務はなく中国は益々発展成長する、と豪語した。

 気候変動の交渉で中国が一貫して主張してきたWTO類似の表現は、「共通だが差異のある責任」である。いずれもわが国を含む先進西側諸国の成長の芽を摘み取りつつ、中国には成長の機会を確保し、それから必然的に生じる成長速度の相対的差異を外交戦略的に活用しようとする中国通商政策の狙いが感じられる。西側諸国は、中国の大きな市場規模に目が眩み、国際的レジームへの取り込みの過程で条件交渉に甘さがあったということなのかもしれない。

 いずれにせよ、WTOは深刻な機能不全にある。それは今に始まったことではなく、今世紀の始まりの頃には既に腐食が始まっていた。紛争処理機能の麻痺が最近よく指摘されるが、決してそれだけではない。上記記事の中でラナ・フォルーハーは、現在の枠組みを抜本的に見直すべき時期に来ているとの主張をしている。

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