日本経済が長期停滞する中で、労使交渉では賃上げよりも雇用の安定を優先することが「公正」とされてきましたが、インフレや人手不足の影響から、22年末に連合が5%の賃上げを要求する方針を決定し、各企業もそれに追随。政府も「物価高に負けない賃上げ」の実現を促しました。
必ずしも経済全体の動きではない
23年の春闘では、賃上げ率が3.6%と30年ぶりの高水準となり、24年も5%を超える賃上げが見込まれていますが、春闘での賃上げが経済全体の賃上げを必ずしも反映していないことには注意が必要です。
賃金に関する主要な統計である厚労省「賃金構造基本調査」からは、経済全体の名目賃金の上昇率は春闘での賃上げ水準よりも低いことがわかります。
厚労省が労使交渉の実情を把握するために公表している「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」と比較してみましょう。図からわかるように、「賃金構造基本調査」の賃上げ率は、「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」よりも低くなっています。23年の数字を見ると、「賃金構造基本調査」の賃上げ率は2.1%なのに対し、春闘の賃上げ率は3.6%と半分強にとどまっています。
なぜでしょうか? それは春闘での賃上げ率が経済全体ではなく、一部の企業だけのものだからです。「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」では、資本金10億円以上かつ従業員1000人以上の企業で労働組合がある場合に対象となり、23年の対象企業数はわずか364社です。
連合の最終集計結果でも賃上げ率は3.58%となっており、その対象は5272組合に属する287.7万人の組合員となっていますが、それでも非農林業雇用者数の5%弱に過ぎません。
さらに、労働組合への加入者は減少傾向にあります。厚生労働省の「労働組合基礎調査」によると、労働組合に加入している人が雇用者に占める割合を示す「推定組織率」は23年に16.3%で、過去最低水準を記録しました。