2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2024年5月15日

 また、非正規雇用者の存在も無視できません。非正規雇用者が全雇用者に占める比率は約4割近くに達していますが、これらの人々は、春闘による賃上げの影響を受けにくいとされます。

 労働組合に加入しているパートタイム労働者は141万人で、組織率はわずか8.4%にとどまっています。さらに、加入していても労働組合との間に距離感があり、賃上げを求める声などを交渉に反映しづらいことも課題となっています。

 もっとも、春闘の賃上げ率と経済全体の賃上げ率の間にはプラスの関係が観察されるため、春闘で高い賃上げが実現されれば、経済全体での賃上げも期待されます。しかしながら、日本経済が賃金面で望ましい状態にあるかどうかを判断するには、経済の一部である春闘参加企業だけを見ていては不十分だと言えるでしょう。

イメージと異なる大企業と中小企業の賃金動向

 さらに驚くべきは、「賃金構造基本統計調査」によると、23年の賃上げ率は中企業で2.8%、小企業で3.3%であったのに対して、大企業ではマイナス0.7%でした。春闘の結果を見ると、大企業が賃上げをけん引しているような印象を受けますが、大企業の賃上げ率が、中小企業よりも低く、しかもマイナスだったというのが実態なのです。

 年齢層別に賃金上昇率を確認すると、中小企業ではすべての年齢層で賃上げ率が前年比プラスとなっているのに対して、大企業では35~54歳の層でマイナスとなっています。日本の大企業では、日本的雇用慣行のひとつである年功賃金により、年齢に応じて給与が上がる傾向にありましたが、若い人材の確保に注力することで変化が生じていると言えます。

 また、大企業の賃上げ率が中小企業を下回ったのは、人手不足に対応するため、非正規雇用で人材を穴埋めしたことが影響していると考えられます。非正規労働者の賃金は増加傾向にあるものの、未だに正規労働者の賃金よりは低く、非正規労働者の増加が平均賃金を押し下げる要因になっています。特に、女性の非正規就労が増えたことで全体の賃金が低下した可能性があります。

 もっとも、正社員に限定しても、大企業の賃上げ率は0.6%のプラスにとどまり、中企業の2.7%、小企業の3.4%を下回ります。一方、連合の春闘賃上げ率によれば、23年には組合員が300人以上の企業で3.64%の賃上げが実現されましたが、300人未満の中小組合では3.23%にとどまりました。

 このような連合の数字からは、大企業が高い賃上げを実現し、中小企業がそれに追いついていないという印象が強くなります。しかし、「賃金構造基本統計調査」のデータによればそのような結果とは限らず、賃上げをめぐる議論には先入観や固定イメージが含まれている可能性があります。より厳密なデータ分析が求められるでしょう。


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