2024年7月16日(火)

革新するASEAN

2024年6月6日

デジタル化も成長を後押し

 一般に工業化は関連するサービス業の成長を促す効果を持つ。企業間における原材料、部品、最終製品のやり取りは卸売業を活発化させるほか、工場等設備投資に必要となる資金確保や経常的な取引や費用支払いの決済は金融・保険業も発展させよう。さらに、企業の運営に必要な会計監査、税務、法務、製品の高度化に必要な設計等も工業化に伴って徐々に成長してくるであろう。また、製造業セクターでの雇用が増加するにつれて、労働者の購買力も増加し、それを反映する形で小売業も伸長してくることが期待される。

 実際、ASEANにおいてもこうした動きが確認できる。データ上の制約からインドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの5カ国の合計をASEANとみなし、サービス業を構成する各業種の名目GDPに占める割合の変化を見たのが図表3である。金融・保険業、専門・技術サービス業、卸・小売業の占める割合が上昇していることが見て取れる。

 一方、想定外ともいえる存在感の高まりを見せているのが情報・通信業である。この背景には世界的なデジタル化の進展と、それに対するASEAN社会の適応能力の高さを指摘できる。実際、ASEANでは2000年代半ば以降、急速に携帯電話が普及し、10年代になると普及率は先進国である日本や韓国と同レベルに達している(図表4)。

 このような携帯電話の急速な浸透は通信会社の成長を後押ししただけでなく、特にスマートフォンの登場以降は、その利用を前提としたアプリ開発等のスタートアップ企業の活性化を促した。また、フィリピンは豊富かつ安価な英語話者人材も併せて活用することでビジネス・プロセス・アウトソーシング事業の一大拠点となっている。

日本企業はASEANのデジタル化を取り込もう

 これまでの議論を踏まえれば、ASEAN経済の順調な発展はグローバル工業化とデジタル化という二つの世界的なトレンドをうまく活用することによって成し遂げられているといえる。これに対して、日本企業のASEAN経済の成長取り込みは製造業に依存している。2023年のASEANからの直接投資収益は4兆5,380億円であったが、このうち2兆1431億円が製造業からの収益であった。

 一方、情報・通信業からの収益は603億円と全体の1.3%である。ASEANの情報・通信業の名目GDPに占める割合が4%以上を確保していることを踏まえれば、十分に成長を取り込めているとはいいがたい。日本企業が一段とASEAN経済の成長を取り込みたいのであれば、ASEAN発のスタートアップ企業等への投資を積極化することが次の戦略の一つとなりうるだろう。


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