2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2024年5月23日

 北京で習近平は「長期的・戦略的観点から関係を拡大すべき」と述べたが、ドイツが提起した過剰生産能力や不公正競争の問題や、ウクライナ和平への働きかけには、まったく無反応であった。このためかは定かではないが、ドイツ当局は4月後半、中国のスパイ容疑で4人を検挙した。いずれにしても、習近平が訪仏時に見せた友好ムードとは大きな隔たりがある。

中国「グローバル・サウス」外交の加速

 そして習近平が、セルビアとハンガリーという「友好国」で大歓待を受け帰国した数日後には、ロシアのプーチン大統領が訪中して、世界に向けて強固な「同盟」関係をアピールした。それは一方で、EUと中国の関係悪化が、もはや複合的な安全保障がかかわる構造的な問題であることの裏付けでもある。

 さらに中国は5月19日に、日本、米国、台湾だけでなくEUも名指しして、電子機器や自動車などの各種製造産業で幅広く利用されているポリアセタール樹脂のダンピングを調査すると表明し、反撃姿勢を露わにしはじめている。

 近年の習近平は、ますます「西方に包囲されている」という猜疑を増幅させる一方で、これを突破するため加速させている、東南アジア、南太平洋島嶼国、中央アジア、中東、アフリカ、中南・南米など、いわゆる「グローバル・サウス」との積極的外交から、自信を深めている可能性がある。そして今後の中国外交はますます、基本的価値観も含めて自身に好ましい「友好国」を、経済的インセンティブを軸に篭絡(ろうらく)することで、パートナーシップ拡大に腐心すると考えられる。これによって国際社会での影響を拡大し、中国の自存自衛につなげようとするであろう。

 この中国の「グローバル・サウス」外交は、いわゆる「債務の罠」などのネガティブなイメージがつきまとう。しかし現実をみると、仮に一時的・打算的ではあっても、中国と諸国の双方には利害の一致があり、また中国への信頼や共鳴が増しているのも事実である。

 そして振り返れば、国際社会で「普遍的価値」を奉じて権威主義や専制主義を否定する側が少数派になるという、「新しい世界」が待ち構えている可能性も、もはや非現実的とは言えない。このように考えると、EUの対中姿勢変化は自由主義・民主主義陣営に望ましい一歩だが、一方で、価値観を守るための厳しい戦いは、まさに始まったばかりなのかもしれない。

※本文内容は筆者の私見に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません。

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