2024年6月24日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2024年5月23日

 とはいえEUにとって、依然として中国との経済的利益は最優先事項であり、本格的な対立に至るわけではなかった。だが、20年の新型コロナウィルス流行をめぐる中国の開き直りとも言える外交姿勢によって、欧州での対中イメージは急速に悪化した。

 その上、21年には新疆ウイグルの人権状況をめぐるEU側の対中制裁に端を発した制裁応酬や、リトアニアの台湾との接近に対する中国側の露骨な経済的威圧という懸念事項が、相次いで発生した。こうした影響から「EU・中国包括的投資協定」の欧州委員会での承認プロセスが凍結されるなど、双方の関係がこじれていった。

 加えて、22年からはじまったウクライナ戦争によって、EUの対中不信は決定的になった。EUにとってロシアの侵略行動は、直接的な安全保障リスクとなったが、そのロシアの背後で、中国は暗黙裡だが強固に連携・支援する姿勢を取りつづけている。

 このため、それまで対中関係では大きな利害をもたなかったEU加盟国、特に北欧・中欧諸国間では、中国という存在が、権威主義的・専制主義的勢力の一致行動者であるというリスクが再認識された。これに伴いEU側では、中国への経済依存度の高さを含めて警戒感が急速に高まり、これを見直す動きが顕著となっていった。

EUのデリスキング政策とドイツの変化

 関係がさらに悪化したのは23年後半である。13年1040億ユーロであったEUの対中貿易赤字は23年3970億ユーロに急膨張し、経済面の不均衡は覆いがたいものとなっていた。この素地や先述の安全保障面の懸念、さらにEVや半導体関連の摩擦、中国による技術情報剽窃、中国市場の閉鎖性も相まって、対中経済安全保障政策が硬化する。

 欧州委員会は23年10月、中国製EVへの政府補助金の調査を開始し、11月には素材関連の対中依存を減らす「重要原材料法案」導入で合意した。これらは中国との経済関係を継続しつつ、そこに潜むリスクを低減させる、いわゆるデリスキング政策の一環である。

 本来、EUの対中関与は経済利益に基づくが、これが根本的な安全保障基盤に悪影響をおよぼし、その便益の分岐点を下回るとすれば、デリスキングを推進するのは当然である。これは十数年前に米中間で開始され、現在も悪化しつづけている構造と同様である。

 無論、地政的位置や域内多様性から、EUの対中姿勢は米国と完全に一致するものではないが、変化の発生は避けがたい。それは同時に、国外では米国との競合・対峙に直面し、国内では経済不況、外資の直接投資減、過剰生産問題を抱える中国にも、好ましくない事態である。だが、対立根源がEU側にとっての安全保障上の構造的問題である限り、打開には限界がある。

 こうした予兆は、4月中旬のドイツのショルツ首相訪中時の「塩対応」にも見える。周知のようにドイツは長年の積極的対中投資から、日本同様、経済界中心に親中派が多い。しかし、ショルツ政権は昨年7月、予想外の強硬な「対中戦略」発表し、中国の反発を招いた。


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