2024年7月27日(土)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年5月30日

欧米やアジアで転職が繰り返される理由

 まず、日本以外の世界、例えば欧米やアジアの雇用というのは「ジョブ型雇用」だ。知識やスキルは自分で獲得する。

 例えば大学でコンピュータサイエンスを専攻したら、そこで真剣に学習していれば、AIやアプリ開発の最先端エンジニアとして採用される。経理部の社員になるには同じように財務会計を専攻して、公認会計士資格などを取ったうえで就職する。

 反対にスキルのない人材は、職種も年収も限られることになる。つまり、日本では理系から技術者、教職課程から教員、医学部から医師、法学部から法曹といったルートが限られている「専門職」がありとあらゆる職種に適用されるのが「ジョブ型雇用」である。

 経営者も例外ではない。漠然と営業成績が良かったり、社内政治を勝ち抜いた人間を経営者にするということはない。ビジネススクールなどで学び、経営という専門職に必要な知識とスキルを獲得した人材を外部から招聘するのが普通である。

 欧米やアジアというのは確かに「ジョブ・ホッピング」といって転職が当たり前の社会である。だが、このような「ジョブ型雇用」が前提になっていることを理解しなくてはならない。

 その場合は、知識やスキルは自分で用意する。そのことによって、巨大な国際労働市場で価値を認めてもらい、「リンクトイン」のようなSNSなどをつかった「つながり」で転職を繰り返してゆくのだ。

ゼネラリストを求める日本企業

 反対に、日本の事務職候補や営業候補の人材は、そうした専門スキルを自分から用意するのが難しいグループである。その場合は、日本特有の「メンバーシップ型雇用」として、企業組織に入っていくことになる。

 この「メンバーシップ型雇用」の場合、採用時には専門スキルは期待されない。官庁なら公務員試験を通って面接に受かれば採用される。企業の事務職なら、学歴やテストで基礎能力をチェックし、面接を繰り返して採用する。転職の場合もほぼ同様だ。

 そのうえで、仕事に必要なスキルは現場で身につけるというシステムとなっている。また職種については固定せず、さまざまな職種を経験させて「全体のわかる」人材、つまり「ゼネラリスト」にする。このグループが管理職候補となり、さらには幹部候補になっていく。

 雇用される側としては、自分の意に沿わない職種でも甘んじて経験し、その期間にその職種に関する知識とスキルを獲得することを繰り返さないと、組織ピラミッドの「上」には行けない。「上」に行かなくては権限は与えられず、自分としてやり甲斐のある社会貢献もできない。その場合に、若い時代に転職を繰り返していれば、いつまでも権限を持つポジションに行けないわけであり、従って仕事を通じた本当のやり甲斐は獲得できないことになる。


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