2024年12月9日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2024年3月8日

『副業おじさん』(朝日新聞出版)。若月澪子(わかつき・れいこ)。1975年生まれ。ジャーナリスト。大学卒業後、NHKのキャスター、ディレクターとして生活情報などを担当。結婚退職後に自殺予防団体の電話相談ボランティアを経験。育児のかたわらウェブライターとして借金苦や終活に関する取材・執筆を行う。ギグワーカーとして様々な仕事を体験中。

 若月澪子さんの『副業おじさん』(朝日新聞出版)によると、2018年は副業元年だった。厚労省が、「自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求できる」とする〈副業・兼業の促進に関するガイドライン〉を発表したのである。

 若月さんは、「年金が足りないから、その分自分で別に働いて」と深読みしたが、確かに「副業」が浮上する時代が到来した。

 2008年のリーマン・ショックや3年続いたコロナ禍で、多くの企業の業績が悪化した。減収はサラリーマン、特に子どもの教育費や住宅ローンを抱える中高年サラリーマンに大きな痛手となった。不足分の収入を、どうにかして穴埋めしなくてはならない。

「プロローグによれば、執筆のきっかけはアルバイトで訪れた大学入試の試験会場だったとか?」

「はい。試験監視官のような単発バイトは私みたいな主婦か学生だけでは、と考えていたら会社員や自営業のバイトおじさんが意外に多く、中高年男性の副業問題に気付きました」

ホワイトカラーのスキルは世間で通用するのか?

 若月さんは、「副業おじさんと私はよく似ている」と言う。なぜなのか?

 若月さんはNHKの元キャスター、ディレクターだった。ただし非正規の契約社員。30代前半で結婚し仕事を離れた。出産・育児を経て「やりがいのある仕事」への復帰を願ったものの、苦戦した。学童保育指導員や、タウン誌ライターなど非正規の仕事を転々した。

「私の旧肩書きなど世間で通用しません。特別なスキルもない。それは多くの一般ホワイトカラーの人も同じと思ったんです」

 かくして、副業おじさんの背中に自分の姿を感じつつ、2021年から約2年間に及ぶ「副業の森の迷走」を開始したのだ。

「誰でもすぐ思いつくのは、在宅可能なオフィス作業ですよね? 動画製作とか、HPの作成、ウェブの記事作りとか?」

 趣味と経験を生かして、楽に、できるだけ短時間で実益を、とまず考える。

「ええ。でもその種の仕事は、若くて才能あるフリーランスの人がとっくにやっています。単価も数百円から数千円と安いし、充分な副業収入を得るのはとても困難です」

「人気のある副業」と「人気のない副業」

 若月さんによれば、副業には「人気のある副業」と「人気のない副業」があるという。

 人気組は、前述の大学試験監視官やコロナ時期のワクチン会場案内人。スーツ姿のままの軽作業の割に、時給がいいからである。

 逆に、不人気組の筆頭は食品工場だ。これには若月さん自身も体験のため挑戦してみた。工場内のラインで、10秒間の饅頭パック詰め作業を7人で立ったまま分担しておこなった。

「単調でつまらないんです。ずっと同じ姿勢であちこち体が痛くなるし、一人の動作が遅れると作業全体がストップするので他の人に恨まれる。時給は1400円でいい方ですけど、自分を機械以下の存在と感じてしまう。ただ、60歳以上のパートさんには貴重な職場でしょうね」

 パン工場で働く副業おじさんも取材したが、食品工場の単調で苛酷な職場環境は同様とのこと。


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