2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年6月17日

 国連の持続可能な開発目標(SDGs)の国別ランキングではインドは193ヵ国中112位(22年)(日本は21位、中国でも63位)。道路網の半数近くが未舗装で、農地の3分の2が灌漑を雨水に頼っている。

 世界で安全な水へのアクセスがない約8.4億人のうち,インド人は1.6億人(19.3%)(15年)。世界で最も大気が汚染されている100都市のうち,63都市がインド(21年)などなど。

 当然多数の選挙民の関心は、足元の経済不安の改善であり、現政権に対する批判は常に強い。だからこそ、これを覆い隠すべくナショナリスティックなアジェンダや宗教アジェンダを繰り出す傾向にあるのだが、今回の選挙時点では、主要20カ国(G20)や、アヨージャ市の元々モスクが建っていた場所にヒンズー寺院を建設したといった、インド国民の誇りを高めた象徴的アジェンダの効果は既に薄れていたのだろう。その一方、野党側は、若干ポピュリズムに走り過ぎたとはいえ、格差や若年失業者といった足下のアジェンダに相当特化したことが功を奏した。

民主主義による「修正力」という見方も

 また、これまでBJPは、野党から造反を誘ってどんどん切り崩し、党全体を大きくしていくという戦略をとり、造反の餌として「BJP公認候補」にするという対応を取ってきたが、これに対して、どの国でも同様だが、歴年の仇敵をなぜ応援しなければならないのかという地元BJPワーカーからの反発が生じ、投票動員力に陰りが生じたとの足元での影響もあったようだ。巨大選挙であるだけに、地元の支援者の力がどうしても必要で、動員力の有無が結果を左右するということなのだろう。

 ただ、やはり、背景にあるのは、インド国民の「バランス感覚」、換言すれば、現職への厳しい対応というのがあるように思える。これは、インドにおける民主主義の「修正力」を示すものであり、ポジティブに捉えるべきではないか。

 心配な点があるとすれば、モディ3期政権は、国内アジェンダを重視した、現在よりは内向きな政権になるのではないかということだ。これは、日本にとってはあまり良いニュースではない。

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