しかし今回の選挙結果は、所得上昇よりアイデンティティー政治を優先することの限界を示している。また、モディ政権は、報道の自由の抑圧で、選挙民の一部を遠ざけた。
野党コングレス党の一層の過激化がなければ、BJPの敗北は一層大きかっただろう。ラウル・ガンディーが実権を握るコングレス党は、穀物配給の拡大と雇用と教育の一部にカーストに基づく割当制度を導入すること、さらに政府雇用の拡大を約束した。
このような計画に対する有権者の懐疑主義の結果、モディは引き続き権力の座に座ることになった。これは、左派政党に対し、中道政策をとる方がより効果的だという教訓を与えただろう。
この選挙結果は、インド国民の指導者に対する期待値が高いことと、再び世界最大の民主主義が、指導者に対してより良い仕事をするように戒めたことを示している。今後の問題は、モディがこの選挙の戒めを真剣に捉えるか、または、今まで以上に党派的で強権的な手法に走るかだ。
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モディが解決できなかった「格差」
今回のインド総選挙の結果は、BJP大勝という事前予測とは大きく異なる結果となった。BJPは、選挙前は単独で302議席(与党連合で320議席)と、下院543議席の過半数を持っていた。一方、野党コングレスは、53議席に過ぎず、野党連合でも108議席で、与党と比べれば、ほとんどトリプルスコアだった。
しかし、今回の選挙結果では、BJPは60議席以上を減らして240議席に沈み単独過半数を失う一方、野党コングレスは47議席増やして99議席に躍進。与党連合では何とか293議席で、過半数の272議席を上回り、モディの続投となったが、野党連合が229議席を確保し、選挙前に比べれば倍増を超える。
なぜこのような結果になったのか。
インドは年8%を超える経済成長を続け、来年25年には日本のGDPを抜き世界第3位になる見込みであり、将来は米中と共に3大超大国の一角を形成するだろうが、国も人口も大きいので、「格差」という面では大きな問題を抱え続けている。
貧困率(1日1.9ドル以下の生活者比率)は13.4%(15年)から5%(22年)に減少したとはいえ、いまだに絶対数で7000万人を超える。5歳未満の子供の約4割が低体重で栄養上の問題があり、2億人が電気の無い生活を、6億人がトイレの無い生活をしており、これは、世界全体のトイレがない10億人の半分以上だ。