建設会社の中には、災害廃棄物の処理・運搬などを担っている会社もある。人手不足の穴埋めとして、「港が隆起し船を出せなくなった漁師をアルバイトで雇用している会社は多い」(里谷さん)という。
「人助けだと思ってこの仕事を続けてきました。でも、全ての依頼に対応するのは難しい」と話すのは輪島市在住の谷内均さん、約50年のキャリアを重ねるベテラン大工で、倒壊した家屋を一目見れば、修繕可否の判断ができるという。5月中旬時点で、すでに15軒以上の半壊家屋を再生させた。
「一人でさばくには時間的にも体力的にも限界がありますから、倒壊の度合いや緊急性を天秤にかけ、優先順位をつけるしかない。複数のお宅を少しずつ同時並行で工事しています」
奥能登は日本の近未来か?
日常生活のありがたみ
現地滞在中、被災地ではあらゆる分野で圧倒的に人手不足「感」が見られた。そして、日常を取り戻すためにまさに〝総動員〟で取り組んでいる光景を見るにつけ、記者は改めて日常生活のありがたさをかみしめた。防災・復興政策に詳しい大阪公立大学大学院准教授の菅野拓さんは「奥能登では労働力不足で『復旧したくてもできない』状況が散見されます」と指摘する。
例えば、建物の解体・撤去を公費でやるにしても、申請を受け付ける自治体職員が足りず事務作業が進まない、実務を担う解体業者も不足しており、作業ができないケースもある。事実、5月31日時点で奥能登の4市町の全申請数のうち、解体・撤去が完了しているのはわずか2.6%だ。
「東日本大震災の時と違い、今回は労働市場に全く働き手がいないという新たな課題に直面しています」と菅野さんは言う。その意味で、奥能登は日本の近未来を映し出しているのかもしれない。
取材に応じてくれた人々は自身が被災者でありながらも、協力し、支え合いながら日々の生活を送っている。日常生活を支えてくれる人々の希少性が取材で浮き彫りになった。
前出の里谷組の里谷さんは話す。
「人間、一人じゃ何もできません。生活維持サービスを支えてくれる皆さんがいないと当たり前の暮らしは成立しないことに、本当の意味で気づかされました。これは、自分が当事者にならないと分からないことかもしれません。それでも、一人でも多くの人に、このことに気づいてほしいですね」