2024年11月22日(金)

現場搾取社会を変えよう

2024年6月25日

副業で
EWをやってみる

 日本の労働人口のおよそ半分がオフィスワーカー、その中心で働くのは正社員の男性である。今は女性がフルタイムで働く時代になったが、結婚・出産後の女性は非正規雇用が多く、副業的な働き方がメインだ。一方でエッセンシャルワークと呼ばれる清掃、接客、看護、保育、介護など、低賃金と言われる仕事の担い手は女性が中心で、最近は外国籍の人が急増している。

 エッセンシャルワークに対し、「大変そうだ」「低賃金だ」という漠然としたイメージはある。しかし彼らのプロとしてのこだわりや仕事の面白さが伝えられることは少ない。

 筆者自身、清掃の仕事を体験して気がついたのは、「日本中のあらゆる場所が、誰かによって掃除されている」という、非常にあたりまえのことだった。オフィスワーカーはそうした「あたりまえ」に気づいてこなかった。二つの世界は分断されていると言っていい。だからエッセンシャルワーカーの待遇改善が進まないのかもしれない。

 社会に不可欠なエッセンシャルワークに、オフィスワーカーが副業で取り組めば、両者に立ちはだかる垣根を下げ、エッセンシャルワークの地位向上や待遇改善につながる可能性があるのではないか、取材を通してそう考えた。

 副業することで他人事を自分事にする機会をつくるのだ。投資やブログの執筆だけがオフィスワーカーの副業ではないはずである。

 本業とはまったく違う仕事に飛び込むことは、本人にとってもプラスになる。副業した中高年男性の多くは「自分の本業に新たな気持ちで取り組めるようになった」と語っていた。副業を禁止する企業は未だに多いが、副業は本業に適度な刺激を与える効果があることは間違いない。

 清掃や接客、ドライバーなどの副業をしてみることで、新たな知見に出会うチャンスもある。

マウントを取って
嫌われるのもいい経験

 例えば筆者が取材した人の中に、スターバックスで週に1日だけ副業をしている40代男性がいた。彼は「スタバはチェーン店だし、マニュアル通りにやればいいだろう」と思ってアルバイトに入ったが、スタバには接客マニュアルがないという。お客さんをどうもてなすか自分で考えなければいけないのだ。中高年のオフィスワーカーにとって、接客業のアルバイトは学生時代のイメージのままでいることが多いが、こうしたサービス業の変化を体感することもできるのだ。

 一方で、看護、介護、保育などの仕事は、基本的には専門の有資格者が行う仕事なので、週に1~2日程度の副業で関わることは難しい。

 ただ素人がサポートという形で副業する方法はいろいろ考えられる。例えば自治体のファミリーサポート制度(子どもの一時預かりなどを一般家庭で行う制度)や介護施設のお手伝い制度に登録するとか、障害がある人の外出をサポートする「ガイドへルパー」にチャレンジするなどだ。

 こうした仕事はほとんどが最低賃金かそれ以下の報酬である。副業で関わると、感動的なシーンに出会える一方で、やりがいが搾り取られる感覚も体感できるだろう。

 オフィスワーカーが副業で清掃や接客の仕事をするのを、「没落」のように感じる人もいるかもしれない。ただ「副業で自分の本業の自慢をしてマウントをとってしまい、現場で完全に浮いてしまった」とか、そうした手痛い失敗を経験しておくのもいいと思う。

 高齢化社会では誰もがいずれは社会的弱者になる。肩書や名刺が通用しない世界に飛び込むことで、トガったプライドに適度にヤスリをかけ、あらゆるシーンで柔軟に生きられる準備をしておくことは、今後のためになる。


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