2024年9月29日(日)

現場搾取社会を変えよう

2024年6月25日

「副業おじさん」の
活用が叫ばれる時代?

 しかし、ここで一つ懸念がある。

 今、日本中の偉い人は、もれなく人手不足に頭を抱えている(加えて、長く働いていることで、組織内のチームワークに支障をきたすような存在で、会社にしがみつくようなおじさんたちの処遇にも頭を抱えている)。

 かつて偉い人たちは、「女性の活用」という言葉を叫んでいた(今「活用」と言うと炎上騒ぎになるから、最近は「活躍」と言っている)。さらに「高齢者の活用」「外国人労働者の活用」と、人手不足の穴を埋めるように「活用」の範囲は広がり続けている。今度は「副業おじさんの活用」と言い出す可能性がある。

 それでは今度はおじさんが「やりがい搾取」されてしまう。

 本業でボロボロになっているオフィスワーカーに向かって、もっと働け、次は副業だ、エッセンシャルワークだなんて言ったら、過労死してしまう。「働き方改革」って言っていたのは何でしたっけ? という話になる。

 だから一番に言いたいのは、そこではない。

 つまり、何だかとてつもなく忙しそうにしているオフィスワーカーの仕事は、本当に大事な仕事なのでしょうか、人の生活を支え、人の役に立ち、人に感謝されることが本来の仕事ではないのですかね……ということを言いたいのだ。

 読者諸氏の誤解を恐れず、あくまでも一例を挙げると……誰も読んでなさそうなメールマガジンを、時間をかけて作成し、大量のコンサルに調査を依頼して推し進めるプロジェクトが本当に必要な仕事なのですか。効率、効率って騒いでも、まったく生産性は上がっていませんよね。ムダな仕事が多過ぎるからじゃございませんかね。

 いま一度、立ち止まって考える時期に来ていませんか。それに気がつくためにも、外から自分の仕事を客観視するためにも、副業してみてはどうですか。いろんなことが分かりますよ。働くことの意味を見直せば、本当にお金を払うべき仕事は何かが分かるのではないですか……。

 ということを言いたいのである(もちろん、顧客にとって意味のあるメールマガジンもあるし、多くの人々の役に立つプロジェクトもあることはあるので、筆者は全てを否定したいわけではない)。

 そういう意味でも、オフィスワーカーには是非とも副業していただきたいし、副業に対するハードルを下げ、社会全体で働くことの意義を考え、共有するという意味で、そうした環境を整えることも、政治や企業の経営者にも考えてほしいのだ。

副業で何かが
見えてくる

 そして、そのことを気づかせてくれたのは、皮肉にも家計の不足を補うために、身体にむち打ち肉体労働をしていた「副業おじさん」たちだった。

 彼らは自分の家族や生活のために副業していたのだが、決して肉体労働を嘆いてはいなかった。運動不足の解消になる、本業について考えさせられる、サラリーマン生活とは何だ、働く喜びとは……副業を通じてそうした根源的な問いに向き合うことになっていたのである。

 「働くとは何か」を考えること、それは幸福の追求でもある。見えていなかったすぐそばにある仕事が、実は私達にお金以外の何かをもたらしてくれている、今そのことに真正面から目を向けるべき時なのではないだろうか。

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Wedge 2024年7月号より
あなたの日常が危ない 現場搾取社会を変えよう
あなたの日常が危ない 現場搾取社会を変えよう

水道、電気、介護、ごみ収集……。私たちの日常は数々のエッセンシャルワーカー(EW)によって支えられている。しかし、現場の最前線で奮闘する彼らは長年軽視され、あらゆる現場は崩壊の危機に瀕している。これ以上の現場搾取は許されない。EWの待遇改善のため、そして、日本人の固定観念を変えるため、小誌取材班は現場を歩いた。


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