自身の存在が重いのは、自分がまだ見ぬ限界へ成長していくことができるという確信があり、そこにたどり着けていない自分と向き合っているからだという。重圧は苦しいときもあるが、自らを高めるためには不可欠なもの。羽生さんはそうとらえているように思えた。
羽生結弦の前にある「壁」とは
インタビューに応じてくれた羽生さんは、フィギュアスケートをしていく上での「壁」についても、とても興味深い話を聞かせてくれた。
羽生さんは競技者時代、点数や成績という評価軸を前に、乗り越えるべき壁が常に目の前にあったと振り返る。そして、目の前に壁があることは大好きだったという。
乗り越えた先には、自分にしか見ることができない光景があったからだろう。ただ、プロになってからは、誰かが壁を用意してはくれなくなった。競技という枠、得点という評価軸を飛び越え、これまでの物差しでは測ることができない世界に身を投じたからだ。
羽生さんは言った。
「いまは、壁を見つけにいっている状況ですね。自分が『もっとこうしたい』『強くなりたい』と思うから、そのために壁を(自分で)作って越えていくというイメージです。
たとえば、ここにすごく大きな階段があって、僕自身は小さな蟻だとします。あくまで階段は階段であって、壁ではないはずなんです。だけど、『次のステージに上がりたい』と思ったら、蟻のような存在の僕は階段を壁ととらえて登らないといけないですよね。自分から壁を見つけて、進化するために登っていくという感覚です」
プロとしての限界は誰も決めてくれない。誰かが乗り越える壁を用意してくれることもない。「いいもの」という抽象的な期待値に対し、具現化した作品を生み出していく。実現までには不安を感じることもある。ただ、それは、自分が期待に応えていけるだけの自信の裏返しでもある。
プロ3年目。たくさんの経験を経て、進化のストライドはさらに広がっているようにみえる。