2024年7月18日(木)

BBC News

2024年6月24日

マット・マーフィー、BBCニュース(ロンドン)

エフゲニー・プリゴジン氏(故人)が率いたロシアの民間軍事会社「ワグネル」が、ウラジーミル・プーチン政権に対して反乱を起こし、世界に衝撃を与えてから23日で1年がたった。専門家らは、ロシア政府がこの1年でワグネルを事実上解体し、別組織に変えたとみている。

プリゴジン氏は、ロシア軍指導層と数カ月にわたって対立。緊張が高まった後の昨年6月23日、ワグネル部隊を率いてウクライナからロシアに入り、南部の都市ロストフを掌握した。

プリゴジン氏はこの作戦を「正義の行進」と呼び、モスクワに向かって北上を続けた。その間ほとんど抵抗を受けなかった。しかし、翌24日に突然、中止を指示。作戦は終了した。

そのわずか2カ月後、プリゴジン氏の乗った飛行機が墜落同氏とワグネルの幹部数人が死亡し、ワグネルの先行きは不透明になった。

雇い兵に関する国連作業部会のメンバーで、コペンハーゲン大学(デンマーク)の講師を務めるソーチャ・マクラウド博士は、ワグネルの元部隊員らはロシア全土に分散していると述べた。

「(ワグネルは)以前とまったく同じ形ではないかもしれないが、一つまたは複数のバージョンが存在し続けている」とマクラウド博士はBBCに話した。「ロシア国内に分散しており、全体を統括している人はいない」。

「ワグネル・グループはロシアにとって地政学的にも経済的にも非常に重要だった。そのため、一部で予想されたように消滅することは決してない」

ワグネルは長年、ロシアがアフリカ各地やシリアで行う活動にとって、貴重で否定可能な道具となってきた。しかし、プリゴジン氏とワグネルが表舞台に登場したのは、ウクライナに絡んでだった。ロシアの通常戦力は、ウクライナの防衛を破るのに苦労していた。

2022年後半から2023年前半にかけて、ロシアの戦場での数少ない勝利の鍵を握っていたのがワグネルだった。主に元囚人らで構成された部隊は、東部の都市ソレダルを占拠し、さらにバフムートで数カ月間、激しい戦闘を繰り広げた。

ワグネルがウクライナに送り込んだ部隊員は最大5万人に上ると、米国家安全保障会議(NSC)はみていた。

専門家らは現在、ウクライナでのワグネルの活動について、ロシアの国家組織や準軍事組織に吸収されたとしている。ワグネルの元指揮官の一人は最近、雇い兵らが「国防省に加わる」か出て行くように命じられたと、BBCロシア語に話した。

イギリスの情報当局は、ワグネルの歩兵部隊の一部が「ロシア国家親衛隊(ロスグヴァルディア)」に吸収されたとみている。2016年に設立されたこの親衛隊は、プーチン氏の「私兵」と呼ばれており、同氏のボディーガードだったヴィクトル・ゾロトフ氏が管理している。

英国防省は、ワグネル・グループの一部が昨年10月、国家警備隊の管理下に入り始めたとの見方を示している。元ワグネル部隊は「ボランティア部隊」と呼ばれており、6カ月契約でウクライナに、9カ月契約でアフリカに派遣されるとした。

バフムートでの血なまぐさい作戦を指揮したとされる、ワグネルの古くからの幹部アントン・エリザロフ氏は、この統合を後に認めたもようだ。通信アプリ「テレグラム」のワグネル関連のチャンネルに投稿した動画で、同氏は元ワグネル部隊が「ロシアのために働く」キャンプの建設に立ち会ったとし、国家警備隊と新たな編成で合流すると述べた。

英当局は、「元ワグネルの突撃部隊がロスグヴァディアの義勇軍に編入されたことは、ワグネルがロスグヴァルディアに従属し、ロシアがワグネル・グループに対する支配力を強めたことを示している可能性が高い」とした。

他の元ワグネル部隊については、チェチェンにおけるプーチン氏の右腕であるラムザン・カディロフ氏、および同氏のアクマット部隊と共に戦う契約を結んでいることが、最近のBBCロシア語の調査で判明した。

ワグネルの衰退は、本部が入っていたロシア第2の都市サンクトペテルブルクの高層ビルからワグネルのロゴが消し去られたとされることからも、具体的にうかがえる。

反乱から数日後、プリゴジン氏はプーチン大統領と取引し、ワグネルの活動をアフリカに集中させ、政権を支え、ロシアに資源を確保することで合意したと言われている。

またプリゴジン氏の死後、ユーヌス=ベク・エフクロフ国防次官がアフリカ各国の首都を歴訪し、ワグネルの提供するサービスを今後も継続することを関係者に保証したと報じられている。

シンクタンク「ポーランド国際問題研究所(PISM)」は今月初め、プリゴジン氏の死後、「ロシア国家のアフリカに対する関心が弱まるどころか、むしろ強まった」と報告した。

BBCは今年2月、ロシア政府が戦略的に重要な天然資源へのアクセスと引き換えに、「政権存続パッケージ」を提供していたことを示す文書を入手した。これは、ワグネル・グループが以前好んで採用していた手法である。

この計画パッケージは、いわゆるロシアの「遠征部隊」、あるいは「アフリカ部隊」の別称で知られる組織が提示したもので、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の元司令官、アンドレイ・アヴェリャノフ氏が指揮していた。アヴェリャノフ氏は以前、暗殺や外国政府の不安定化工作を専門とする極秘作戦を監督していた。

専門家らはBBCの取材に対し、アフリカ部隊は事実上、西アフリカにおけるワグネルの後継者となっていると語った。テレグラムでは、この部隊は新兵に最高で月 11万ルーブル(約20万円)の給与と、「豊富な戦闘経験を持つ有能な指揮官の指導の下」での勤務を提供していると誇示している。

アフリカ部隊は1月、ブルキナファソへの隊員100人の初派遣を発表した。4月には、さらに100人がニジェールに到着したとされる。

米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」の安全保障アナリスト、ルスラン・トラッド氏は、ワグネルは事実上、「アフリカ部隊となり、軍事インテリジェンス(と国防省)のために活動している」と述べた。

「アフリカでは、これらの兵士たちはほぼ同じことを行っている。通商ルートの警備や、ロシアが制裁を回避するために使う資源の確保、そしてさらに、現地の軍事政権への奉仕、移民の流れの指揮だ」とトラッド氏は指摘した。

前出のシンクタンクPISMはアフリカ部隊について、アフリカ大陸における西側諸国、特にフランスの影響力を排除する意図で、ワグネルよりも「もっとオープン」に使用される予定だと指摘した。

BBCロシア語は、ワグネルがかつての姿を残して活動しているのは中央アフリカ共和国だけだと報じた。ここでは、プリゴジン氏の息子パヴェル氏が統制権を握っているとみられている。

プリゴジン氏と働いたことのある情報筋はBBCロシア語に、「ロシア政府は、ロシアの利益に反しないことを条件に、アフリカで父親が行っていたことを息子が続けることを認めた」と語った。

仏紙ル・モンドは先週、約1500人のワグネル兵が中央アフリカで、現地治安部隊の反乱軍支配地域への攻撃を支援したと報じた。

しかしPISMは、ロシアの戦略的思考における中央アフリカの全体的な重要性は「縮小している」とみている。

前出のマクラウド博士は、ワグネルが中央アフリカで当初目指していたのは、雇い兵組織を「効果的なテロ対策の担い手として活用できる」という「コンセプトの証明」だったと指摘。ロシアは現在、その目標を達成したとみなしている可能性があるという。

だが同博士は、ワグネルが「完全に中央アフリカに組み込まれている」ため、発展途上のアフリカ部隊と置き換えるのは難しいと付け加えた。

プリゴジン氏の反乱による脅威にもかかわらず、1周年にあたる23日は、ロシアでは大きな事件もなく無事に過ぎた。

モスクワを拠点とする人権監視団体「OVD-Info」のダン・ストルイエフ氏はBBCに対し、プリゴジン氏の遺産は主に、ロシア政府と結託した人々にあると語った。

「一般的に言えばワグネルの反乱は、たとえば記念日を祝う大規模な集会を開くほどの、現実的な草の根レベルの支持をほとんど、あるいはまったく得ていない。おそらくこれは、反戦的なメッセージが一切なかったためだろう」と、ストルイエフ氏は指摘する。

「ロシアで抗議活動を企画する人々はいるが、彼らは反戦活動に力を注いでおり、(プリゴジン氏とは)何の関係もない」

(英語記事 A year after mutiny, Kremlin controls Wagner remnants

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c51114j8rv4o


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