2024年10月5日(土)

プーチンのロシア

2024年7月4日

 しかし、国際社会はロシアに対し、必死に手を差し伸べた。この地に、ようやく芽吹いた〝民主主義〟を支えようと、金融支援などを通じ、さまざまな形でロシアを助けようとした。

 そのかいもあり、ロシア経済は徐々に上向き始める。人々の生活は落ち着き始め、街中には、気軽に楽しめるレストランや衣料品店などが現れるようになっていった。ロシアの人々が夢に見たヨーロッパと同様の水準の生活が、ようやく目の前に現れ始めたのだ。人々はわずかな資金を銀行に預けるなどして、生活を立て直しつつあった。

 しかし、人々の生活はほどなく、大きな混乱に叩き落とされることになる。1997年にアジアで発生した通貨危機が、その引き金だった。

 アジア通貨危機が起こした波は、ほどなくロシアを直撃することになる。ロシアは当時、短期国債を乱発して、借金を返済するために借金を重ねる状況が続いていた。財政状況は極めてもろく、危険な状態だった。

 金融危機の世界的な広がりを受けて、外国人投資家らはロシアの石油産業に投資していた資本を一斉に引き揚げた。高利をうたっていたロシアの銀行は次々と破綻し、なけなしの貯金を銀行に預けて利息による収入を夢見ていた多くのロシア国民は、預金を引き出すこともできず、その資産を失った。銀行の前で、何とか預金を下ろそうとする人々が長蛇の列をなす、悲惨な映像が世界に流れた。そのような苦い記憶があるからこそ、多くのロシア人は〝デフォルト〟という言葉に強い拒否反応を示すのだ。

 今回のデフォルトは、国内での資金調達が可能という点で、その影響は限定的ともいえる。ただ、海外からの資金調達の手段が大きく狭まることは、ロシア経済の中長期的な成長を阻害するという点で、その効果はむしろ今後現れる可能性が高い。

国内品で3割、輸入品で5割値上がり

 ロシアによるウクライナ侵攻後、世界を襲ったのがインフレの波だ。日本もその例外ではなく、その影響はむしろ拡大している。一方で、その震源地となったロシアもまた、インフレに襲われた。しかし、その様子には特殊性があった。価格の上昇が、輸入品において特に顕著だったからだ。

 「肌感覚では、国内品で3割、輸入品で5割上がっただろう。思った以上に値段は上がっている」

 2022年5月にモスクワで面談した日本人ビジネスマンは、街中で売られる商品の価格上昇の現状を、こう説明してくれた。この時期は、ウクライナ侵攻を受けて欧米の主要ブランドが一斉にロシアから撤退を始めたタイミングだった。海外ブランドの商品は、次に入荷するめどが立たない状況になっていて、商品価格は明らかに上昇していた。

 電化製品店などでは、価格が1日で何度も書き換えられたため、次第に値札がない商品が販売されるようになっていったのが、このころだった。海外企業がロシアへの輸出を停止したことが、その要因だった。あるスーパーでは、日本製の飴やガムなどのお菓子が、一袋数千円で売られていた。おそらく誰も買っていないと思われた。


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