2024年11月21日(木)

都市vs地方 

2024年7月4日

 それはさておき、「インベストメント・チェーン」すなわち投資の連鎖を構築するということは、一般には投資⇒企業利益拡大⇒配当や賃金の上昇という資金の好循環を目指すと解してよいだろう。

 ここまでは当たり前のことなので、具体的にその先はどうか。上記構想2.0は、具体的には①グリーンファイナンスの推進、②金融のデジタライゼーション、③多様な金融関連プレイヤーの集積を挙げている。

 これらはもっともなことであり、そのこと自体に対しては誰しも特段の異議はないと思う。気候変動対策に資金が流れることは重要だし、金融のIT化も望ましい。国内外から「多様な金融関連プレイヤーが集積」すればスタートアップも盛んになり新規産業の勃興も促されるだろう。問題はどうやって世界から投資を呼び込むかだ。

キャピタルゲイン課税をゼロにすべきか

 政府が目指す「国際金融都市・東京」の具体的内容は何か。政府は6月に開催された国家戦略特区諮問会議に提出した資料で、「行政手続の英語対応」「スタートアップへ投資する外国人投資家向け在留資格の創設」などを掲げている。

 これに対して日本経済新聞は「政府が打ち出した30に及ぶ金融・資産運用特区の規制緩和策の中で、抜け落ちたのが国税の減免措置だ。シンガポールや香港は株式譲渡益などキャピタルゲインへの課税がなく、法人税率も共に17%前後と、日本(国・地方の法人実効税率は30%前後)に比べて低い」(「国税の減免見送り シンガポールとの格差大きく」)と批判している。

 どうやら、この辺りが、国際金融都市が都知事選挙の争点になりにくい理由だろう。日本では所得税が累進課税であるのに対して、株式配当所得や株式譲渡益に対する課税は一般所得とは分離されて一律20%課税が上限である。一般の国民から見ればすでにキャピタルゲイン課税が相当に優遇されている。

 これを無税にしろ、というのが国民・都民の支持を得られるのだろうか。シンガポールや香港は金融経済によってその地域が成り立っている。製造業や農業・漁業が盛んではない。金融に異存するほかない。

 しかし東京は、関東平野全体に存在する製造業を中心とした分厚く多様な産業基盤の柱としている。都市の特色が違う。東京をシンガポールや香港のような都市にしようというのは、それ自体、都民・国民の支持を得ることは難しいだろう。

 キャピタルゲイン課税を無税にした場合、一般の勤労者にとってもこんなにいいことがある、国民生活に多大なメリットがある、ということがもしあるとすれば,それをわかりやすく説明しないと、国際金融都市という政策は永遠に現実化しないだろう。

 海外からの投資を呼び込むためにシンガポールのように相続税をゼロにせよ、という人もいる。日本では10年ほど前に逆に相続税を強化した。その結果、相続税を納める被相続人の数は14年の約56万人から22年には約151万人に増えた。被相続人一人当たりの納税額も年々増えて22年には全国で1855万円、東京都では3271万円となった(国税庁発表)。

 地価の高い東京では中小企業や農業など事業用資産の特例だけではすまない強すぎる副作用が生じていて、この面では日本の相続税制の是正が必要とは思うが、相続税を一般的に軽くせよ、という世論が日本で盛り上がるとはとうてい思えない。

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