2024年10月5日(土)

古希バックパッカー海外放浪記

2024年7月7日

地方政治家ファミリーはスペイン植民地時代からの遺産なのか?

ミンダナオ島北西の港湾都市カガヤン・デ・オロ市内のポスター。地元選出ロドリゲス下院議員が1500万ペソ(約4200万円)の街路 灯整備の予算を獲得したことをアピールするポスター

 ドマゲッティのホステルのマネージャー氏はスペイン植民地時代に形成された大農園制度(acienda)が地方政治家ファミリーという政治風土の源流であると解説。例えばスペイン植民地時代にネグロス島では輸出用の砂糖栽培の大規模プランテーションが盛んとなった。スペイン人や華僑を中心とする農園主は多数の農民を雇用して大農園を経営した。

 そして有力農園主は地方政治のボスとなっていった。スペインから米国支配に変わっても大農園制度は変わらなかった。こうして地方政治家ファミリーが形成されていったという。政治家ファミリーと農民は経済的に相互依存の関係にあった。ファミリーは忠実な労働力として多数の農民を必要とし、農民は生活(=報酬)を保証してくれるファミリーに依存した。戦後政治家が選挙により選ばれるようになって政治家ファミリーは投票を期待し、選挙民はファミリーに地元利益還元を期待するようになったという。

 マネージャー氏の話を聞いて筆者は古代ローマ時代の元老院の政治家と庶民の関係を思い起こした。政治家は庶民に“パンとサーカス”を与え庶民は選挙で投票する。日常的にも政治家はパトロンとして庶民(クリエンテス)を保護して庶民は様々な陳情を政治家にしていた。

国会議員の80%は世襲、歴代大統領も政治閥ファミリー出身

 プエルト・プリンセサのホステルで遭遇した国連職員の論客女子Nによるとフィリピンのファミリー政治は戦後も一貫しており国会議員の80%は世襲。マルコス・ジュニアは父親が大統領であったと知られているが歴代大統領も大半が政治家ファミリー出身とのこと。

 例えば有名なマルコス家の場合はマルコス・ジュニア大統領の姉はマルコス家の地元の北イロコス州選出上院議員、長男はやはり地元選出下院議員、いとこが下院議長。

 ドゥテルテ前大統領は前職がダバオ市長。娘が前ダバオ市長で現在副大統領。ドゥテルテ前大統領の父親はマルコス・シニア政権で内務大臣を務めている。

 アキノ家はベニグノ・アキノ・シニアが上院議長、その息子のベニグノ・アキノ・ジュニアは上院議員であったがマルコス・シニアの配下により暗殺、ジュニアの夫人のコラソン・アキノは11代大統領、その息子のベニグノ・アキノ三世は15代大統領。

 14代大統領のグロリア・アロヨは経済学者としてのバックグランドが知られているが父親も大統領を務めた名門ファミリー出身である。

 このようにNによると大統領も地方政治家ファミリー出身者が大半であるとのこと。問題はそうしたファミリー出身者は地方政治では反対勢力もほとんどなく能力的に問題ないが、大統領となると野党はじめ反対勢力があり複雑な国政運営では顕著な政治的実績を挙げることができない。

 良くも悪くも強権的政治手法で成果を挙げたドゥテルテ前大統領は歴史に残るとNは評価した。

以上 次回に続く

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