2024年7月22日(月)

BBC News

2024年7月10日

コートニー・サブラメイニアン、BBCニュース(米ニューオーリンズと首都ワシントン)

アメリカのカマラ・ハリス副大統領は6日午後、ルイジアナ州ニューオーリンズで黒人文化のフェスティバルに出席し、自らの半生と、ホワイトハウスで成し遂げたことについて語った。

女性で黒人、そして南アジア系アメリカ人として初めて副大統領となったハリス氏は、ジョー・バイデン大統領の副官としての3年間半に、このようなイベントに定期的に出席していた。通常、後を追う報道陣は小規模で、大統領の大人数の報道陣とは比べものにならなかった。

しかし、バイデン氏がドナルド・トランプ氏前大統領との討論会で精彩を欠き、時に理解不能なパフォーマンスを見せたことをきっかけに、ここから1千キロ離れた首都ワシントンではパニックに陥った民主党員たちが、11月の大統領選挙の党候補を違う人物にすげ替えることを検討している。そうしたなか、ハリス氏を追う記者の数は数十人に膨れ上がった。

ただハリス氏は先週末、ステージ上でも移動中も、バイデン氏の適性に関する疑問や、バイデン氏が候補を辞退して自分にバトンを渡すべきかについて、一切言及しなかった。

それでも、ニューオーリンズの聴衆と、野望や自分の道を切り開く方法について議論する中で、ハリスは否定的な意見には耳を傾けないよう人々に促した。

「あなたの人生に関わる人々は、今はまだその時ではない、あなたの番ではない、あなたのような人は誰もやったことがない、と言うだろう。そんな言葉には決して耳を貸さないでください」

6月27日のCNNの討論会が惨憺(さんたん)たる結果に終わった後、ハリス氏は繰り返しバイデン氏を擁護し、討論会での90分間のパフォーマンスが、大統領としての功績より重視されることがあってはならないと主張した。バイデン氏自身は挑戦的な口調で、自分が候補者であり続けると激しく主張している。

しかし、バイデン氏は大統領選から撤退すべきだという声は高まっており、一部の著名な民主党員らは、59歳のハリス氏を、当然の後継候補として支持している。

カリフォルニア州のアダム・シフ下院議員は7日、NBCの番組に出演し、バイデン氏が「圧勝するか、あるいは圧勝できる人物にバトンを渡すかのどちらか」でなければならないと述べた。そして、ハリス氏ならトランプ前大統領に「圧勝できる可能性が非常に高い」と付け加えた。

この提案に対しては、バイデン氏の盟友を含む一部の民主党員らが眉をひそめている。ハリス氏は、2020年の民主党大統領候補指名争いで、最初の投票が始まる前に撤退した人物であり、ホワイトハウスでの副大統領としての在任期間を通じて、まばらな実績と低い支持率に苦しんできたと見られているからだ。

これに対し、シフ氏や、サウスカロライナ州のジム・クライバーン下院議員など民主党の幹部らは、バイデン氏が党の圧力に屈服した場合の当然の後継者として、ハリス氏の名前を挙げている。

ハリス氏の支持者たちは、いくつかの世論調査で、トランプ氏との仮定の対決でハリス氏がバイデン氏よりも良い結果を出すことが示唆されたと指摘。また、選挙の4カ月前にスムーズな移行を実現できるだけの知名度、選挙基盤、そして若い有権者に対するアピール力があると主張している。

指名候補のトップに昇格することは、つい最近までバイデン政権の上層部によって政治的な弱点と見られていた女性にとって、驚くべき逆転劇となるだろう。バイデン氏自身も、就任当初の数カ月間は、ハリス氏を「成長中」と表現していたと報じられている。

民主党のベテラン戦略家で、ハリス氏の元広報担当ディレクターであるジャマル・シモンズ氏は、ハリス氏は長い間、過小評価されてきたと述べた。

「ハリス氏は大統領のパートナーであろうと、党の候補になろうと、共和党とトランプ陣営が真剣に受け止めなければならない人物だ」と、シモンズ氏はBBCに語った。

CNNの討論会とその余波を受けて、ハリス氏は大統領に密着できるようスケジュールを変更した。3日には、バイデン氏が有力な民主党知事たちに自身の適性をアピールした会合にも、ハリス氏は出席した。

翌4日(アメリカの独立記念日)には、ロサンゼルスの自宅で消防士やシークレットサービス要員のためにホットドッグを焼くという慣例を断ち、ホワイトハウスの祝賀行事に出席したバイデン氏に付き添った。

元カリフォルニア州司法長官であるハリス氏は、討論会以降、公の場でトランプ前大統領を批判することに重点を置き、有権者がなぜ、前大統領を民主主義と女性の権利にとっての脅威だと考えるべきなのか主張している。それと同時に、バイデン氏に対する揺るぎない支持を表明している。

副大統領は常に野望と忠誠心の間で微妙なバランスを取る必要があるが、ハリス氏は今が、大統領との間に亀裂を見せるべき時ではないことを理解している。

しかしハリス氏だけが、バイデン氏の代わりとして取りざたされているわけではない。バイデン氏の後任候補として名前が挙がっているのは、グレッチェン・ウィトマー・ミシガン州知事、ギャヴィン・ニューソム・カリフォルニア州知事、ジョシュ・シャピロ・ペンシルヴェニア州知事、J・B・プリツカー・イリノイ州知事といった人気のある州トップらから、ピート・ブティジェッジ運輸長官、カリフォルニア州選出のロー・カンナ下院議員まで多彩だ。

ハリス氏とそのスタッフは、世間の憶測に関与することを一切拒否している。しかし、一部の民主党員がハリス氏を支持する動きを見せていることもあり、水面下で交わされている会話を十分に意識している。

インターネットでは先に、民主党関係者が書いたとされるメモが流出した。そこには、ハリス氏には「実際の政治的な弱点」があるものの、ハリス氏を推すべき詳細な論拠が示されていた。

また、ハリス氏以外の候補者を選ぶことは、選挙戦に混乱を招き、「民主党内の争い」が数か月間、メディアの注目を浴び続けることになると、このメモは主張している。

バイデン氏が指名を手放すことになれば、民主党がハリス氏を見送って別の候補者を推すという案は、党内の多くの左派や、有力な黒人議員連盟を驚かせるだろう。

こうした状況では、「民主党はいかなる方法でも、ハリス氏を避けるようなことはすべきではない」と、連邦議会で最も著名な黒人議員の一人であるクライバーン氏は先週、MSNBCに語った。

野党・共和党も、ハリス氏がバイデン氏の後継者の最有力候補であることを認めている。

サウスカロライナ州選出のリンジー・グレアム上院議員(共和党)は7日、ハリス氏が民主党の指名候補となった場合には、「劇的に異なる戦い」に備えなければならないと警告した。グレアム氏は、ハリス氏を「活力に満ちた」候補者だと評している。

グレアム氏はまた、ハリス氏のカリフォルニアとのつながりという進歩的なブランドを強調。ハリス氏が政策面ではバイデン氏よりも左派急進派のバーニー・サンダース氏に近いと示唆した。これは、ハリス氏が候補者となった場合の共和党の攻撃を垣間見せるものだった。

一方、当のトランプ前大統領は討論会以降、ハリス氏を「哀れ」だと呼んでいる。

しかし結局のところ、資金力のある献金者を含む多くの民主党員にとって重要なのは、ハリス氏がバイデン氏よりもトランプ前大統領に勝つ可能性が高いのかということだけだ。そして、それは極めて不確実だ。

ハリス氏の支持者たちは、CNNが最近実施した世論調査で、11月の大統領選ではハリス氏がバイデン氏よりも、トランプ前大統領を相手に良い結果を出せるとされたことを指摘している。この世論調査では、直接対決ではハリス氏は前大統領に2ポイント差で後れを取っているが、バイデン氏は6ポイント差で大きく引き離されている。 また、ハリス氏は無党派層や女性層で、バイデン氏よりも良い結果を出すと示唆されている。

だが、多くの世論調査専門家は、これらの仮定のアンケートを否定しており、バイデン氏が実際に退くことを決断し、民主党が他の潜在的な候補者を検討した場合、有権者の感情は変わるだろうと指摘している。

バイデン陣営に近い民主党の世論調査専門家は、ハリス氏が大統領よりも党の有権者基盤を拡大する可能性があると認めたが、ハリス氏がどれほどの違いをもたらすかについては懐疑的だった。現段階でトランプ氏と彼女を対決させる調査は「何の意味もない」と、この人物はメディアに話すことが認められていないため匿名で語った。

ハリス氏は、インド人の母親とジャマイカ人の父親を持つが、バイデン氏よりも黒人やラテン系、若い有権者からの支持率が高い。ハリス氏の支持者らは、これらの人々は、同氏が候補として活性化できる重要な有権者層だと指摘している。

しかし、実際に有色人種や若い有権者の投票率を上げることができるかどうかは、また別の問題だ。前出の世論調査専門家は、「今は様子見の段階だ」と述べた。

また党の一部からは、ハリス氏の進歩的な評判によって、ペンシルヴェニア州やミシガン州、ウィスコンシン州の、労働組合やブルーカラー有権者を失うリスクがあるとの声も上がっている。2020年にはバイデン氏がこれらの州で辛勝したが、今年も激戦となる見通しだ。

民主党員の一部は、ハリス氏が候補者となる場合、中西部諸州の穏健派有権者を獲得するために、ペンシルヴェニア州のシャピロ知事や、ノースカロライナ州のロイ・クーパー知事を副大統領候補として指名する可能性を示唆している。

バイデン氏とトランプ前大統領の年齢を考慮すると、有権者は今回の選挙戦で、両党の副大統領候補にこれまで以上に注目していると、2020年にバイデン氏の選挙活動に携わったベテランの民主党世論調査専門家、セリンダ・レイク氏は述べた。

共和党側では、トランプ前大統領はまだ副大統領候補を発表していないが、多くの人々が、ノースダコタ州のダグ・バーガム知事か、J・D・ヴァンス上院議員(オハイオ州選出)を指名すると予想している。

ハリス氏の大統領候補としての力量に対する一部の民主党員たちの深い懸念は、2020年の党指名獲得を目指したハリス氏の不運な挑戦にまでさかのぼる。ハリス氏は初期の討論会でバイデン氏に痛烈な攻撃を浴びせたものの、アイオワ州での最初の党員集会前に脱落した。

批評家たちは、ハリス氏が候補者として自分自身を定義することに苦労したと述べたが、その感覚は、副大統領としての在任期間を通じて続いている。ハリス氏のホワイトハウスでのスタートは不安定で、注目度の高いインタビューでの失言や、低い支持率、スタッフの入れ替わりが目立った。

また、南部国境での移民流入を減らすための政権の戦略を監督することも、ハリス氏の仕事だった。移民の流入は過去3年間で記録的なレベルにまで増加しており、民主党の選挙運動にとって主要な弱点であり続けている。

こうした初期の失敗を受け、ハリス氏は公の場への登場に慎重になったが、有権者の多くは、ハリス氏を無力で不在ととらえている。レイク氏は、「人々はハリス氏がどんな人なのか、どのような経済問題に精通しているのか、もっと知る必要がある。彼女が果たしてきた役割を知る必要がある」と述べた。

ハリス氏はこの1年間で、人工妊娠中絶の権利に関する政権の主要代弁者として、安定した足場を見いだした。この問題は、2022年の中間選挙で民主党が勝利を収める要因となり、11月の選挙でも、より多くの有権者を獲得するきっかけになると期待されている。

性犯罪事件を扱ってきた元検察官のハリス氏は、この問題で有権者の支持を得ようとする中で、トイレで流産した女性や、病院で追い返された女性たちとの個人的なエピソードを引用している。

選挙戦では、学生ローンの免除、気候変動、銃による暴力など、若い有権者の共感を呼ぶ問題も利用しようとしている。ホワイトハウスも、ハリス氏をより強力に宣伝するために一丸となって取り組んでいる。

それでも、長年にわたる有権者の懐疑的な見方を変えるのは容易ではない。米ABCニュースが提供する世論調査「ファイブサーティエイト(538)」がまとめた世論調査の平均では、彼女の支持率は37%前後と、バイデン氏やトランプ前大統領と同程度だった。

そして、バイデン氏自身が党内の圧力に屈しない限り、草の根の民主党支持者たちは現在の党候補予定者を支持するしかないようだ。

ハリス氏が参加したニューオーリンズのイベントで、同市在住の小規模自営業者イアム・クリスチャン・タッカー氏(41)は、最終的に誰が候補者になるかは重要ではないと語った。

彼女はハリス氏のことが好きだが、黒人女性の大統領候補が勝利できるのか確信をもてないと言った。

「私はドナルド・トランプではない候補に投票する。それだけだ」

先週ウィスコンシン州マディソンで行われたバイデン大統領の集会に参加したグレッグ・ホヴェル氏(67)は、2020年の予備選挙でハリス氏を支持し、「常にハリス氏のファンだった」と述べたが、「この国には女性に対する反感がたくさんある」と警告した。

「彼女は素晴らしい大統領になるとは思う」とホヴェル氏は言う。「それでも、私はバイデンが勝てると思う」。

(取材協力:マイク・ウェンドリング)

(英語記事 Democrats look to Kamala Harris - but could she beat Trump?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c98q0w5deejo


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