2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年7月16日

 今のところ、中国は北極ルート使用を強行しないだろう。船舶業者は予測可能性を好む。

 北極圏温暖化で北極圏航路の航行スケジュールは氷河と濃霧に大きな影響を受ける。しかし中国企業はロシアが西側市場喪失を補うためアジアに向かう結果、見返りはあると見ている。

 ロシアの港湾建設や石油・ガスプロジェクト、ロシア船舶建造への参加等だ。ロシアは北極海沿岸港湾整備への中国の関与を過剰と見ていたが、今や他の選択肢は無い。

 西側制裁のリスクもある。中国の研究者は政府に、北極を巡るロシアとの協力では注意深く目立たないよう求めるが、5月のプーチン訪中時に両国は、北極航路を国際輸送の重要な回廊として開発すると誓った。氷上シルクロードは滑りやすいが、いまだ魅力的なのだ。

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ウクライナ戦争の長期化で中露関係に変化

 1年ほど前、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙の「北極の寒気;中露の浸透の恐れ」と題する解説記事は、ウクライナを巡る緊張に乗じて中国とロシアが北極・天然資源への影響力を強める恐れがあると指摘していた。ウクライナ戦争の結果北極評議会へのロシアの参加を制限せざるを得なくなり、その結果、北極評議会の枠外で北極圏開発を巡り露中協力が進むのではないか、という論旨だった。

 当時から見ると、ウクライナ戦争の継続が、露中関係に必ずしも前向きな結果ばかりをもたらしている訳でないことがよく分かる。

 まず、当時は、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟の可能性はいまだ顕在化していなかった。北極評議会の加盟国は、ロシア以外は、米国、カナダ、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、アイスランド、ノルウェー。ロシアの参加が実質的に制約される中で、残りの加盟国は全てNATO加盟国になった。これ自体はロシアにとり大きな誤算だっただろうが、中国の今後の北極圏での影響力伸長との関係でも、中国の孤立感は明白だろう。

 さらに、より幅広い視点から見ても、ウクライナ戦争を巡る中国の対ロシア支援は、中国を取り巻く外交環境を益々悪化させている。直接の関係は無いとは言え、日韓関係接近と日米韓協力の活性化は、日韓に楔を打ち込むことを困難にした。中国がこれまで前向きでなかった日中韓首脳会合の開催をOKしたのも、単に分断を図るだけでは不十分で、日韓両国に関与していかざるを得ないとの判断があったからだろう。


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