「核の威嚇」の質的変化の第二は、24年5月および6月に行われた、戦術核の使用を想定したとする露・ベラルーシ合同演習である。これは、「ウクライナへの部隊派遣の可能性を排除すべきでない」とするマクロン仏大統領等による西側の「挑発」に対抗するものとロシア側は主張した。この頃は、半年にわたり遅延していた米国の対ウクライナ支援が議会を通過し(4月22日)、さらに5月末には露領内への攻撃が部分的であれ承認された時期にもあたる。
以上の動きの次になされたのが、今回の中距離核兵器の生産と配備の示唆発言である。現時点では「言葉の脅し」であるが、これが脅し文句に沿った形で第三の質的変化に発展するのか、あるいはまったく別の形の「威嚇」が行われるかはまだ分からない。
ロシアの戦略アセットへの攻撃
ただいずれにせよ、この4月以降、ウクライナ戦争の現場では一進一退の状況が続く中で、ロシア領内にあっては戦略アセットが次々に攻撃されるという、これまでになかった現象が見られつつある。例えば、今日ロシアが保有する最も強力なレーダーであるOTHレーダーが複数基、ドローン攻撃で損傷を受けている。損傷の程度によっては露の戦略防空能力にとって深刻な障害となりかねない。
また、6月下旬には、クリミア半島にある宇宙通信センター(NIP-16)がウクライナからの攻撃を受けて損傷した。ロシアの偵察衛星や衛星測位システム(グロナス)の機能に何らかの障害が出ている可能性がある。ウクライナ国内にミサイル攻撃を繰り返してきた戦略爆撃機Tu22Mも撃墜されている。
ウクライナによるこれら戦略アセットへの攻撃は、同国へのミサイル攻撃等を抑えることに資すると同時に、ロシアにとっての対米欧関係上の抑止力を弱めることに繋がり得るものである。このような状況の中で今後ロシアがさらに「威嚇」のレベルを上げ、一層緊張を高める行為に出る可能性は十分にある。これに対し、米国やNATOは、露による核使用の場合には断固として対処する旨の明確なメッセージを送り続けることがますます重要になってきている。