2024年7月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年7月19日

 プーチンは、最近のウクライナにおける米国の動きにただ反応しているだけかも知れない。バイデン大統領が、米国が供与した兵器によるロシア領内への攻撃をハルキウ周辺に限定したとは言え認めたとき、プーチンは対抗措置をとると明言していた。

 核搭載可能なミサイルをさらに生産するというプーチンの脅しは、核兵器の威力を利用してウクライナとの戦争で優位に立とうとする最新の試みに過ぎない。侵攻開始当初、プーチンは兵器をより高度な即応態勢に置くよう命じたことがあったが、どうやら実行されなかったようだ。

 22年10月、バイデン政権は、ロシアの将軍たちがウクライナの軍事基地とみられる場所での戦術核兵器の作動計画を示唆するやりとりを傍受したが、危機は核兵器が使われることなく緩和されている。

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高まる「威嚇」のレベル

 本件記事にあるとおり、プーチンの「核の威嚇」は常に曖昧な表現でなされるが、そこで示唆される「レッドライン」は、これを超えたからと言って特に深刻な事態に繋がることはなく、西側としては毅然と対処することが重要である。

 他方同時に、プーチンは西側の出方に応じて、侵攻当初の「脅し文句」から徐々に一定のアクションを伴うものへと「威嚇」のレベルを上げてきていることも間違いのないところである。ウクライナ戦争においては後述のとおり、早期警戒レーダーを含むロシア領内の戦略アセットがいくつも攻撃されるという、これまでにない事態が生じつつあるところ、上記の行動パターンがさらに緊張を高める行為へと発展する可能性を念頭においておく必要がある。

 プーチンによる「核の威嚇」は侵攻開始直後から繰り返し行われてきたが、22年中はそのほとんどが具体的な行動の伴わない「脅し文句」であった。

 一定の行動が伴うという意味で「核の威嚇」が質的な変化を見せた最初の例は、23年6月に開始したとするベラルーシへの戦術核(非戦略核)配備である。当時は5月に米国がF-16のためのウクライナ人パイロットの訓練を承認し、ウクライナは「反転攻勢」の準備を進め、片やロシア軍はプリゴジンが自律的な動きを活発化させて、のちに反乱を起こすなど混乱の時期にあった。


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