2024年11月22日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年7月16日

標準化された仕事ばかりしていていいのか?

 例えば清掃にしても、安全衛生の観点が守られる範囲内で、機械化を伴いつつ標準化が進み、そこに効率的に人力が配置できれば生産性は上がる。事務作業にしても、本来は単純なものである文書整理、財務会計や税務の作業などを、自己流を貫くために手作業を行っていた企業は多い。情報セキュリティの問題をクリアした上で、徹底した標準化とDX化が入り、必要な人力はスポットワークで補うという方法論は生産性の向上に寄与するのは間違いない。

 けれども、これからの日本が目指すのは中進国の地位に安住することではない。そうではなくて、大卒比率50%という高い教育水準を誇る社会に本来のリターンを求めるのであれば、あくまで先進国の経済を維持する必要がある。そのためには、基礎能力の高い人材には「スキマバイト」で当面の収入を確保するだけでなく、「スキマを使った学び」を追求して、先進国型の高付加価値人材へと成長してもらう必要がある。

 例えばシンガポールの場合には、高度事務職には大卒レベルの知識では不十分だということを国策としている。具体的には、終業後の夜間や週末などに大学院レベルの学習を奨励し、補助金を広く支給している。

 そのような「学び」を通じて、例えば経理部員は公認会計士や会計学の修士号を、法務部員は司法試験をというように、ステップアップをしてゆくのだ。個々人のステップアップは、やがて国の国内総生産(GDP)の拡大につながる。

 グローバル金融とAIが全産業を支配する時代となりつつある中では、先進国経済を維持するには準英語圏入りが欠かせない。その場合の個々人のスキルアップも急務であり、新しくプログラミングを学ぶとか、会計士を目指す場合には、最初から英語で学ぶプログラムで人材を整備する必要があるだろう。マネジメントスキルなどもそうだ。

 現在も既に始まっているが、今後の日本のビジネスの現場は、マネジメント上の判断や知的付加価値創造については英語で行われ、しかもそのチームはどんどん多国籍化するだろう。その一方で、日本という社会に根ざした現場の作業はどんどん標準化され、場合によってはスキマバイトを併用しながら効率化が進むだろう。


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