2024年11月22日(金)

スポーツ名著から読む現代史

2024年8月8日

日本人が金メダルを獲ると変わるルール

 本書は3部構成で、第1部は近代スポーツの発祥の地、英国でのサッカー、ラグビーのルールの変遷をたどった。第2部は主にバスケットボールを題材に、合理性を徹底して推し進めた米国流のルール運用を解説した。そして第3部が「日出づる国が世界と出会うとき」のタイトルで、日本国内のスポーツ事情にスポットを当てた。

スポーツルールはなぜ不公平か
生島淳著、2003年、新潮選書

 第1、2部ももちろん興味深いのだが、今回は第3部の日本に関わる記述を読み解いていきたい。本文中にはないのだが、同書の背表紙にこんな文章が添えられている。

 <日本人が金メダルを獲ると、なぜルールが変わるのか?>

 確かに、日本人が五輪で金メダルを獲得すると、ルールが変更された例は少なくない。著者の狙いか、出版社側の狙いかはわからないが、同書が出版された大きな理由に、五輪のたびに繰り返される「日本たたき」への反発があったのではないかと推察される。

 第3部で、最初に取り上げたのが大相撲だ。

 03年1月、「平成の大横綱」と呼ばれた貴乃花が引退を表明した。著者は<貴乃花の引退によって、角界が昭和とつながっていた歴史の糸が静かに途切れたような気がする>(158頁)と書いたうえで、驚きの結果を指摘する。

 同年初場所の格段優勝者は次の通り。

【序の口】琴欧州(ブルガリア)【序二段】闘鵬(兵庫県)【三段目】時天空(モンゴル)【幕下】黒海(グルジア)【十両】朝赤龍(モンゴル)【幕内】朝青龍(モンゴル)

 序ノ口から始まって幕内最高優勝まで、6人中5人が外国出身力士で占められた。20年前から、既にそうだったかという感慨に襲われる。

 著者は日本人力士の低迷について、相撲部屋特有の徒弟制度に耐えてまで相撲を続ける理由が見つからなくなり、新弟子の数が減少。それに代わって外国人力士が穴を埋めている――と分析する。

五輪では、「柔道」とは別の「JUDO」に

 日本国内にとどまった相撲に引き換え、柔道は積極的に海外に進出した。1964年の東京五輪で採用され、68年のメキシコ五輪では実施されなかったが、72年のミュンヘン五輪からはすっかり「五輪競技」として定着した。

 相撲とは異なる道を進んだ柔道だが、海外とのカルチャーギャップと出会い、競技の持つ本質を大きくゆがめられたと著者は見ている。


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