著者はノルディックスキー複合でも日本の力をそぐ改正が行われたと指摘する。
92年のアルベールビル五輪と94年のリレハンメル五輪で日本の荻原健司らが複合で連続金メダルを獲得した。すると国際スキー連盟は95年、複合団体のメンバーを3人から4人に増やした上で、ジャンプのポイントを後半の距離のタイム差に換算するレートの変更を決めた。
それまでは、3人の選手の「合計ポイント」を時間に検算していたが、4選手の「平均ポイント」に変更した。ジャンプで大量リードする日本の「勝利の方程式」を大幅に縮小する効果が出る。
著者は改正の背景をこう見ている。
<ノルディックスキーは、北欧を中心に楽しまれる伝統ある競技だ。首脳陣からすると極東の島国、日本に金メダルを奪われるのは驚天動地の出来事だったという。(略)日本はジャンプの強化に力を入れたことが勝因となった。ヨーロッパの国々は、ノルディック複合のメインを距離競技においており、ジャンプはさほど得意ではない。(略)距離競技が始まる時点でほぼ、勝負がついているようなことが多くなってくる。日本人は距離競技を軽視している。邪道だ、という発想につながり、「ハンディが適正でない」という結論につながる>(195頁)
ルールに「日本人の視点」入れる努力を
著者はスポーツのルールをめぐって日本と世界の解釈が違った場合、自分の主張を英語で説得できる人が少ないことが問題だと指摘し、次のように提言する。
<ほとんどの競技団体で欧米人が主流になっているのは事実だが、そうなれば欧米の発想をもとにしたルールが作られていくのは当然である。しかしそうなると、背が高く、動きの遅い選手に有利なルール改正につながっていく。バスケットボールのジャンプボールが恰好の例だが、背の低いアジアの選手はどんどん不利な条件に追い込まれ、ひいては競技自体の普及にも大きな影響が出る可能性がある。(略)高さより平面での動きを重視したルール改正の流れを作っていくことができるはずだ。それが見て面白い競技に発展することも十分にある。つまり、日本人の視点は、スポーツをおもしろくする可能性を持っているということなのだ>
同書が刊行されてから20年の時間が経過した。スポーツのルールはどう変化し、日本スポーツにどんな影響を与えたか。そして、今回の五輪をどう見ているのか。論客としても知られる著者の次なる著作を期待したい。