2024年8月31日(土)

新幹線を支える匠たち

2024年8月31日

日中のために夜間があり
夜間のために日中がある

 新幹線の安全性や快適性を維持するためレールは定期的に「更換」される。

 「レールを新しいものに更新するという意味を込めて〝交換〟ではなく〝更換〟という字を用いると聞いています」(保院さん)

匠たちが見抜くわずかなレールの異変について分かりやすく説明してくれた保院さん

 「累積通過トン数」という列車の通過回数に類した数値に基づく周期で更換されるほか、列車が繰り返し走行することでレールに疲労や磨耗、ひび割れなどの損傷が生じることもあるため、「レール探傷車」という車両が走行しながらレールの状態をチェックし、基準値を超えた箇所については更換が行われる。

 今回行われた作業は更換に向けた事前調査。レール切断位置を確認するとともに、重機の移動経路の確認も行う。後日行われる作業は現在のレールを切断して取り除き、新しいレールを取り付け、前後のレールと溶接するという大掛かりな作業であり、数十人の作業員と複数の重機を駆使して行われる。仕上がり状態を確認し、現場から撤収する時間も含めれば午前4時には作業を終えている必要がある。拙速は禁物とはいえ、作業時間に余裕はない。

 「夜間に作業をする時間は限られているので、できるだけ事前に準備して現場での作業時間を短くする。〝現場では必要最低限のことだけにとどめる〟というのが理想です」(保坂さん)

もともと直属の上司だった保院さんが「現場のことは全て彼が知っている」と、全幅の信頼を寄せているのが保坂さんだ

 現場に持ち込むレールと元のレールの長さがわずかでも違っていたら更換作業に手間取り、始発列車が時間どおり走れないという事態につながりかねない。それだけに測り間違いは許されない。念入りにレールの長さを測っていたわけがようやく理解できた。

 保坂さんに1日の仕事の流れを聞いた。夜間に現場作業がある日は、朝8時に出社すると大井保守基地に出向き、レールなどの積み込み確認を行う。その後はオフィスに戻ってJR東海のスタッフらと当日の作業内容について打ち合わせを行い、現場に持ち込む機材の準備をして夜に備える。そして夜間の作業を行い、終わった後は報告書をまとめて朝6時に勤務終了となる。合間に休憩があり、翌日は非番になるとはいえ、タフなスケジュールだ。

 一方の保院さんも今でこそ日勤のデスクワークが中心だが、昨年までは保坂さんと一緒に現場で仕事をしていた。

 「夜間の作業中の騒音や振動が苦情になることがないよう気を付けて作業していますが、事前に沿線にお住まいの方々に広報活動を行い、ご理解をいただくことも重要です」(保院さん)

 保院さんと保坂さんの話を聞いて、夜間の工事がスムーズに進むかどうかは昼間の事前準備にかかっているということがよくわかった。新幹線の安全・安定輸送が夜間の保守作業に支えられていることを知っている人は多いが、夜間の保守作業を昼間の準備作業が支えていることはあまり知られていないのではないか。


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