2024年8月31日(土)

新幹線を支える匠たち

2024年8月31日

見て聞いて乗って分かる
新幹線の「足元」を支える技

 普通の人には真似できない〝匠〟ならではの技はあるのだろうか。2人に尋ねると、まず保坂さんが口を開いた。

 「レールをちょっと見ただけで沈んでいるかどうかわかります。この部分が低くなっているからちょっと上げよう、とか」

 一見、まっすぐのレールも実際は列車の荷重によって一部が沈み、微妙に波打メっていることがあるという。目で確認できる沈みとは数センチメートル単位なのかと聞くと、「センチではなくてミリ単位です」と保坂さんは言った。

 さらに、保院さんが補足してくれた。

 「私たちがわかるのは4〜5ミリですが、協力会社の職人さんなら1ミリでもわかります」

「レーザースコヤ」と呼ばれる装置。軌道用の「直角定規」で、レール継ぎ目位置の直角度などを測定できる

 それだけではない。現場の職人さんたちはちょっとした線路に敷かれたバラスト(砕石)の色の違いから異変を予想できるという。

保坂さんが持っている装置の正式名称は「LR-S100(軌道検測装置)」。線路の上に乗せ、転がすことで状態を検測する

 「バラストがちょっと白くなっていたら、それはバラストがこすれて粉が出ている証拠。バラストがこすれるのはレールと枕木の締結が緩むなどして列車通過時に枕木が振動するからです。だからバラストが白くなっていたらレールが枕木にしっかりと固定されていることなどをチェックする必要があるのです」(保坂さん)

 その時点では基準内に収まっていたとしても、数カ月後に保守が必要になるかもしれない。現場の職人たちが持つ五感のセンサーは、ドクターイエローで検知する前の些細な線路の歪みさえキャッチすることができるのだ。

 保線のプロは列車に乗っていて線路の状態を感じることができるかと2人に尋ねると、即座に「わかりますよ」と返された。

 「ぼんやりしていたら気づかないかもしれませんが、意識していれば、ここはレールを換えたんだろうなということがわかります」(保院さん)

 「揺れだけでなく、音も変わります」(保坂さん)

気温の高低によってレールが伸縮することもあるという。匠たちはその変化も見据える

 新幹線の乗り心地──。これまで300系、700系、N700系、N700A、N700Sと新型車両が登場するたびに乗り心地が向上されてきた。しかし乗り心地とは車両だけで実現できるものではない。そこには昼夜にわたる保線作業員たちの知られざる苦労もあった。

 目下の課題は人材確保だ。「こういう仕事があることを知らない人が多いかもしれない。知ってほしいなあ」と保院さんがつぶやいた。

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