2024年10月1日(火)

孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

2024年10月1日

 80代の親が50代の子どもを支える「8050問題」をはじめとした孤独・孤立への取り組みを進めるため、昨年5月に成立し、今年4月に施行された「孤独・孤立対策推進法」の概要で基本理念として掲げられているのは、次の3点である(内閣官房HPより引用)。

①孤独・孤立の状態は人生のあらゆる段階において何人にも生じ得るものであり、社会のあらゆる分野において孤独・孤立対策の推進を図ることが重要であること。

②孤独・孤立の状態にある者及びその家族等(当事者等)の立場に立って、当事者等の状況に応じた支援が継続的に行われること。

③当事者等に対しては、その意向に沿って当事者等が社会及び他者との関わりを持つことにより孤独・孤立の状態から脱却して日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるようになることを目標として、必要な支援が行われること。

 筆者が注目するのは、「当事者等の立場に立って」という視点である。昨年4月に施行されたこども基本法でも、「こどもまんなか社会」が理念として掲げられており、当事者主体は一種のトレンドワードとなっている。しかし、筆者は、この当事者主体という理念に一種のうさん臭さを感じている。

兄弟姉妹には
どこまで扶養義務があるか

 冒頭の問いかけに戻ろう。親亡き後に残されたひきこもりの生活の面倒は誰がみるのか。民法第877条には、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」との規定がある。この規定だけをみれば、ひきこもりの扶養はその兄弟姉妹が果たす義務があることになる。

 それでは、どこまで面倒をみなければならないのか。法律の条文や解説を読んでも、いまひとつよくわからない。

 ただし、それでもいくつか言えることはある。原則、扶養義務は当事者間の問題である。両者の協議が整わないときは例外的に家庭裁判所の審判によることになるが、学説では長期間扶養していた事実があるとか、多額の相続があったような特別な事情を除いて扶養義務の履行が強制されることはないとされる。実際、家庭裁判所の審判で親族扶養の履行を認めた審判が出るのは、ごく稀である。

 つまり、第三者が扶養義務の強制をし、またはそう誤認させるような行為は、違法または不適切な行為となる。

 それでは、公的制度の利用にあたって親族扶養は全く考慮する必要はないのだろうか。そう単純な話ではない。

 生活保護法の第4条第2項には、「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」という規定がある。厚生労働省は、この根拠に基づいて福祉事務所に対して、生活保護の申請時に親族に対する調査(扶養調査)を行っている。これに加えて、マニュアルで「要保護者に扶養義務者がある場合には、扶養義務者に扶養及びその他の支援を求めるよう要保護者を指導すること」を求めている。

 近年、この扶養義務の取り扱いを根拠として、不適切な形で生活保護申請の却下を繰り返していた福祉事務所があることが明らかになった。群馬県桐生市である。


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