ブレードの反りは曲がりやすさに関係
靴に関しては、ほかにも興味深いことがある。ブレードは真っ平らに見えて、実は刀の反り、船底のような曲線になっている。「ロック」と呼ばれる曲線で、曲率半径(R)21~26mの円弧と同じ緩やかなカーブとなっている。ロックは、何のためにあるのか。それは、スケートリンクのコーナーに対応するためである。リンクはイン、アウトの2コースあるが、インコースのコーナーの半径は26m、アウトコースは30m。この半径より少し曲率半径を小さくすることで、コーナーが曲がりやすくなるのである。23m前後が最も多く、ブレードの前後でロックを変える選手もいる。
図5:カーブの曲がり方(出典『スポーツ大百科』(悠書館))
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もう一つ、選手が見えない工夫をするのが、靴底に取り付けるブレードの位置。図4を見て欲しい。
手前はスケート靴の中ではき、足、ブレードを固定するインナーブーツ。底は樹脂製で堅い。足のかかと、爪先付近で、ブレードをつけるねじ止めが2カ所あるが、その位置にかなり幅があることがわかる。これによってブレードを気持ち内側につけるか、外側につけるか、前後で若干のゆがみをつけるか、などの工夫ができる。その位置は、カーブでの滑りを重視するか、あるいはスタートや直線を滑りやすくするかなどレースの戦略にかかわってくる。
長島はコーナーを意識
コーナーでの失速が課題という長島は、このブレードの位置にこだわり、試行錯誤を繰り返した。コーナーを意識していることがわかる。一方、コーナーが得意で、ぐんぐん攻め込んで加速する加藤は、あまりこだわらない。
対照的な2人だが、今季のW杯など前哨戦の戦績(下表)を見ると、ほぼ互角と言っていいだろう。
W杯では、ともに優勝しているが、優勝は34秒台の前半。タイムが1000分の1秒単位になっている試合もある。これは実際に勝敗の判定が1000分の1秒で行われたことを意味する。距離に換算すればわずか約10cm程度の差だ。