数々の陰謀論に結び付く「偽情報」
政治目的での偽情報の生成や拡散についても大きな問題です。生成AIを使えば、パブコメを大量に作成することができますし、ソーシャルメディア上の記事も大量に作成することができ、政治に利用されかねません。生成AIは、偽情報の生成器としても使えます。
欧米では、民主主義の敵として偽情報が位置づけられています。誤情報だけでなく偽情報が蔓延してしまえば、個人が適切な情報を知って的確に意思決定できなくなり、民主主義がおびやかされるからです。
もちろん根拠のないデマは昔からありました。「ナチスによる大虐殺はなかった」というように、過去を意図的に塗り替え歴史を修正するようなことも昔から行われてきました。しかし、それがこれまでにないほどに膨らんできています。
インターネットが普及しはじめた1990年代は民主主義の活性化が期待されました。ネットとシティズンの合成語である「ネティズン」という言葉が作られ、インターネットから生まれる新たな民主主義の担い手が着目されました。
実際、マスメディアと違って、インターネットでは誰もが不特定多数に向けて発信することができます。あまりに簡単に発信できるようになったことで、コンテンツの数も激増しています。
サーチエンジンの検索結果の順位づけにも、そのページにリンクすることを投票のように捉え、リンクされればされるほど表示順が上がる方法が採用されました。
一見、民主的になったようにみえます。けれども同時に、さまざまな問題が起きました。他者への配慮に欠いた発言も増え、マルウェアやスパムメールなど悪意のある行為も多数行われています。
単に状況に合わせただけの発信も増えました。マスメディアの信頼がゆらぎ、それぞれの人に応じたコンテンツのカスタマイズ化が起きることで、社会の共通の枠組みが失われました。
そして、情報の裏づけや検証も行っていない誤情報も増えました。数々の陰謀論が渦巻き、意図的な偽情報も増えています。これらが暴動や衝突、ヘイトクライム、テロにつながると、社会がさらなる混乱に陥りかねません。
*7 ハウベン、マイケル/ロンダ・ハウベン(1997)『ネティズン』(井上博樹訳)、中央公論新社